ETREは、資金を求める起業家が投資家の前でプレゼンを行う「Meet the Money」など、通常であればオン/オフステージで取引話が行われるイベントだが、今年は金融危機を受けて出張を見合わせたVCもあったようだ。立ち話では、取引というよりも、現在の世界を取り巻く不安を理解しようとするディスカッションが目立つ。
もちろん、ベンチャー企業にとっては逆風となる。シリコンバレーでオンラインチケット関係のベンチャー企業を立ち上げた人物は、「かなり厳しくなった」と言う。また、エンタープライズ向けのSaaSを提供する米ベンチャー企業CEOも、「投資が保守的になった」と焦りを隠しながらコメントする。
チケット関係のベンチャー企業では対策として、9月に開いた投資家との会合で、
- このまま事業開発プランを継続する
- リスクを伴う事業開発を一時停止し、既存サービスの強化に充てる
の2つの選択肢を示したという。自身は、「金融危機を乗り越えるには、イノベーション。イノベーションには投資が不可欠」と信じるが、「投資家あっての存在」とも述べる。現在、投資家からの回答待ちという。「どちらのプランでも、われわれは応じるしかない」。
オンライン広告関連のベンチャーは、「チャンス」と強気だ。広告投資は下火になるが、オンライン広告は効果が把握できるという特徴がある。この点は、不況時にアピールできると自信を見せる。このほか、顧客獲得コストが下がるという声もあった。
ドイツ・ミュンヘンに拠点を置くVC、独Target Partnersの創業者兼パートナー、Kurt Muller氏は、「われわれ投資家にとっては、バブル崩壊後が最高のとき」と述べる。2000 - 2001年のインターネットバブル崩壊時も投資を控えなかったというMuller氏は、いまこそ長期的な視野にたって投資すべきときと述べる。「大きな利益を得るチャンスだ」とMuller氏。「私は楽観している」と続けた。
今回の金融ショックは金融業界に端を発したものであり、前回のITバブル/通信バブルとは質が異なる。だが、経済活動のベースとなる金融業界の崩壊はさらに奥が深いため、漠然とした不安が覆う。ある大手投資機関のパートナーは、「はじまりに過ぎない」と悲観論を述べ、「住宅の次は、自動車。消費者は当分、新車を買い控える」と予言する。「今後1年から1年半は、消費者支出の大きな増加率は見込めない」(同パートナー)。USB Investment Bankの欧州技術部門幹部も、「景気後退に入ったことは間違いない」と言い残す。
Vieux氏は、「われわれは今後も、技術を必要とする人に提供できるだろうか。起業家が今後もイノベーションを起こすことが出来る環境、機能する環境を提供できるだろうか、今後5 - 10年で大きな崩壊をきたすことなく、新しいシステムを構築できるだろうか?」と問いかける。その答えはETRE会場では出ないまま、3日間の会期を終えた。
ハイテク業界の老舗イベントであるETREは来年、20周年を迎える。そのときにはどのような状況になっているのだろうか?