新技術の活用はエストニアの教育指針
そもそも、エストニア政府はなぜ、ICTに目をつけたのだろうか? Heidelberg氏は次のように説明する。「エストニアは国土が小さく、天然資源もない。限られたリソースを効果的に活用していく必要がある。ICTはこれを実現するには、すばらしい技術だと判断した」
もっとも、ハイテク好きというエストニアの個性もある。Heidelberg氏によると、エストニア政府は1993年、Webサイトを提供していた。これは、世界初の政府のWebサイトといわれている。1998年には、政府のポータルサイトがオープンしている。エストニア政府はまた、早い時期から「Second Life」で大使館をオープンしている。「ソ連の一部であり、歴史的に工学が重要視されていたことは大きな要因だろう。フィンランドやスウェーデンといった、スカンジナビアのICT先進国が近いことも無関係ではない」とHeidelberg氏は続ける。フィンランドの首都ヘルシンキやスウェーデンの首都ストックホルムには、船で行き来できる距離だ。
Heidelberg氏は、ICTがうまく活用されているエリアとして、学校とオンラインバンキングの2つを紹介してくれた。
学校は、エストニアのICT戦略で重要な役割を担っている。それは、冒頭で紹介したブロードバンド普及のための3ステップで、最初に学校にPCを導入したことでもわかるだろう。これについてHeidelberg氏は、「国を開発・発展させていくにあたって、方向性が必要だった。そこで、わが国は新しい技術の教育にプッシュすることにした」と背景を説明する。
現在、学校では、教師、生徒、親がインターネットをコミュニケーションや報告の場として利用している。ここでHeidelberg氏は、実際にお子さんの学校で使われているサイトを見せてくれた。地元企業が開発した民間のアプリケーションで、ここでは、スコアはもちろん、出席状況、宿題のチェックなどの情報が入手できる。教師から親への連絡も入る。このようなシステムの実装は義務ではないが、ほとんどの学校が教師と親の要求を受けて自主的に導入しているという。「eサービスを輸出するのは難しいが、このシステムは他の国に輸出できるのではないかと考えている」とHeidelberg氏は言う。
日本で問題になっている学校裏サイトのような、子供とデジタル化の負の面はどうだろうか? Heidelberg氏はきっぱりと首を横に振る。ティーンエージャーに人気という国産SNSサービスを紹介しながら、「子供たちには人気だが、政府として推奨はしないものといえば、これぐらいだろうか」と苦笑する。このSNSは、どこの国でも見られるティーンエージャー向けのサイトだ。Heidelberg氏によると、ネットというバーチャルな場所を利用したいじめや誹謗中傷は、この国ではまず見られないのだそうだ。概して、学校(教師)、親、子供とともに、オンライン化のメリットは感じるが、デメリットは聞かれないという。
小切手よりもオンラインバンキング
オンラインバンキングもエストニアが誇る電子化の例で、世界でもいち早く実装が進んだ国といわれている。ここでは歴史を大きく活用した。「ソビエトから独立した後、エストニアの銀行は自分たちのシステムをスクラッチから構築していかなければならなかった」とHeidelberg氏。これが幸いし、エストニアの銀行は最新技術を最初から取り入れたのだそうだ。
たとえば、欧米では現金以外の決済手段として小切手がよく用いられるが、エストニアには小切手の仕組みはない。小切手のようなアナログの仕組みを一足飛びして、オンラインバンキングを提供した。現在、オンラインバンキングは日常的に利用されており、「インターネットで何をするか?」という質問では、「電子メールのやりとり」の次に多い。現在、銀行取引の98%がオンラインで行われているという。