バルト海沿いの小さな国、エストニアはハイテク立国として世界的に注目されている国だ。ブロードバンドの人口カバー率はほぼ100%。国民の約6割が、1週間に1度以上インターネットを利用するなど、デジタル識字率は高い。旧東欧国の中でも、GDPの伸びが際立つ同国に、ICTは高く貢献しているといわれている。

エストニアの首都タリンにて、エストニアの経済通信省でICT政策を担当するMait Heidelberg氏に、エストニアのICT政策について話を聞いた。

「エストニアは冬が長い。インターネットのような手段により、生活が便利になった」と語るMait Heidelberg氏。気候という要因もネット普及には関係ありそうだ

エストニアは1991年、当時のソビエト連邦から独立した新しい国だ。人口は約135万人、国土は4万5,227平方キロメートル。北海道の約5分の3の面積に、札幌市の総人口より少ない人が住んでいることになる。

現在、ブロードバンドの人口カバー率は100%。DSLやケーブルが中心で、人口が集中していない過疎地帯では、WiMAXを実装してブロードバンドを普及させている。ブロードバンドは1990年代末から2000年代はじめ、世界が同時にスタートラインにたった。エストニアも例外ではない。だが、普及の速度は目覚しく、2001年には32%だったインターネット利用率が、2008年には68%と倍以上で伸びた。現在、世帯の52%がブロードバンドサービスに加入しており、2007年にオンラインで確定申告を行ったのは86%。実に驚異的な数字だ。

すべての学校にインターネット接続PCを

インターネットの急速な普及は、1990年代終わりから開始した3ステップでの普及政策が奏功したようだ。情報技術に早くから目をつけたエストニアはまず、1990年代末に小学校を含むすべての学校にインターネットに接続したPCを設置した。これが第1ステップとなる。第2ステップは、その後の2000年のことだ。DSLやWi-Fiなどの技術が次々と登場したことを受け、政府は地方自治体などあらゆる公共組織をブロードバンド対応にする取り組みに着手した。

第3ステップが、法制化だ。エストニアは2002年に「Public Information Law」という法制度を導入した。公共機関は、すべての情報をWebでも公開しなければならないというものだ。同時に、市民がこれらのオンライン情報にアクセスできるよう、政府は図書館にインターネットに接続されたPCを設置し、自宅にPCがない人でもインターネットを無料で利用できるようにした。さらには、インフラが行き届いていなかった過疎地帯では、WiMAXを導入してカバーエリア問題を克服した。ここでは、空いた周波数帯をWiMAX向けに開放し、公的資金を投入しつつISPのビジネス意欲を高めた。その結果、2006年にはブロードバンドカバーエリアの穴がすべて埋まったという。

このように、エストニアの高いブロードバンド普及率は、政府がうまく市民や民間セクターのモチベーションを高めた結果といえそうだ。