広く使われるためにも"デザイナー"が重要に

いまさらマッシュアップの説明は不要だろう。複数のWeb APIを組み合わせる――Webサービスの開発としてはごく一般的な手法となった。"マッシュアップのためのマッシュアップ"の時期は去り、いまは実用性の高いマッシュアップが求められる。Mashup Awardsの応募作品も、第1回とくらべると、"より多くの利用者を想定したサービス"が増えてきた。それを受け、第4回開催では"デザイン"や"ビジネス・アイデア"を重視。関連する特別賞も設けた(下の表を参照)。

MA4でデザインを重視したことについてリクルート メディアテクノロジーラボ チーフアーキテクトの川﨑有亮氏は、「(マッシュアップしたサービスを)多くの方に実用的に使ってもらうには、ある程度デザインもきれいにならなければならないし、わかりやすいインタフェースも必要になる。作品をただの技術デモではなく、サービスとして展開していくためにはそうした要素が大事」と説明する。

せっかくのアイデアも、レイアウトや操作性などUIに問題があっては、広く受け入れられない。まして最近はRIA(Rich Internet Application)化の流れが強い。Adobe FlashやMicrosoft Silverlightなどの技術によって、Webブラウザ上であっても高度なUIを実現することは可能になったし、またそれを当然のように望む声も増えている。「ただ、プログラマーが作った画面は――私自身もプログラマーなのですが――質素なものになりがちです」(川﨑氏)。MA4でデザイナー層へのフォーカスを強めた背景にはそうした事情がある。同じ機能であっても、プログラマーとデザイナーとでは"見せ方"が異なってくる。優秀賞に選ばれた「MASHUP×CROSSWORD」の開発者である奥山晋氏も、開発にあたってデザイナーを採用したと話す。

キャラバンなどを通じてマッシュアップを普及

Mashup Awardsは、無数のWeb APIとデベロッパーの出会いの場を提供することも目的のひとつ。藤井氏によると、幅広い業種がWeb API提供企業となってきたという。「今回、オッと思ったのが、サントリーさんにWeb APIを提供していただいたこと(※)。これまでのWeb API提供企業は、Google、Yahoo!、リクルートといったIT寄りの企業が多かった。サントリーさんが自分たちのビジネスのプロモーション用にWeb APIを提供したような動きは、今後、(他業種でも)どんどん進んでいくと面白いのではないか」。そうした動きを開拓するためにも、たとえば、MA事務局を通じてマッシュアップの重要性を啓蒙する全国キャラバン「Mashup Caravan」を実施。2008年は全国7カ所で開催した。企業の規模を問わず集まり、一般企業とWebデベロッパーがコネクションを持つ場となっている。「ITは業種を超えていくと言うが、(Mashup Awardsやキャラバンがきっかけになって)色々な情報を持った企業がマッシュアップされていけば非常に面白いと思う」(藤井氏)。過去の受賞企業であるゴーガも、その後Web API(doodle API)の提供を開始し、幅広く利用されている。

※ウイスキーやカクテルが飲めるバー検索サイト「BAR-NAVI」の情報を活用するためのWeb API。

学生参加も増え、新たな視点のアイデア作品

U-23賞に選ばれた「超店舗検索」

マッシュアップという手法の登場によって、フルスクラッチで作る必要がないという意味では、Webサービスの開発ハードルは下がってきた。その分、アイデアを持ってさえいれば、その実現にあたって社会人、学生の身分差はまったく関係ない。Mashup Awardsにも学生が徐々に参加するようになっており、第4回では学生を対象とした「U-23賞」も設置した。その中で、学生ならではの斬新なアイデアも見られるようになったという。川﨑氏は、同賞に選ばれた『超店舗検索』を高く評価する。これは、最寄りの営業中の店舗を検索できるサービス。深夜にファーストフードを食べたいけど、不慣れな土地だし、どんな店があるのかわからない……そんなときに便利に利用できる。「リクルートもホットペッパーなどのサービスがあるが、時間指定でいま開いているお店を検索するのはすごく大変。ビジネス的にも実現するのは難しい。それが実現されているというのは、大学生のパワーを感じる」(川﨑氏)。

アイデアとしてのイノベーションを

チームラボの猪子寿之氏からは独特のエール

藤井氏は、マッシュアップはイノベーティブな行為なのかという問いに、「マッシュアップ自体がイノベーティブかというより、マッシュアップによって、なにかの垣根やバウンダリ(限界)を超えて、新しいアイデアを実現すること自体がイノベーティブであることは多々ある。ネットワークサービスのアイデアとしてのイノベーションは、テクノロジー云々言うよりもよほど(イノベーティブなものが)詰まっている」と答える。マッシュアップが一般的な開発手法となり、そこから生まれるアイデアに注目が集まり出した今こそ、Mashup Awardsの意義はより強いものになっていきそうだ。授賞式の中で藤井氏は、「受賞者は今日がスタートだと思ってください」と語りかけた。審査員の猪子氏も、これからはエンジニアとクリエーターの時代だとし、「(企業に属さなくても)世界なんて全然変えられるので、みんな気力をもってヤバイものを作ることに集中して、世界を変えましょう」と氏独特のエールを贈った。今後も"アイデアとしてのイノベーション"が高まっていくことを期待したい。

参加者全員で集合写真。次回も挑戦するという人も多かった。期待!

「Mashup Awards 4」おもな受賞者

作品名 開発
最優秀賞 Chamap Kentaro
優秀賞・Technology賞 Newsgraphy 浜本階生
優秀賞・Business賞 モバロケ クリエイトシステム
優秀賞 emo[エモ] - ブログを書いたら自分がわかった! クロスワープ
優秀賞 MASHUP×CROSSWORD チームオクヤマ(奥山晋・岩瀬智子/ザクラ)
Any Device賞 AIR SNPO uranodai
U-23賞 超店舗検索 超店舗検索
User Interface賞 EdBrowser(エドブラウザ) しかじろう
Business Idea賞 RCMSプラットフォーム&mixGroup ディバータ
秋元裕樹審査員特別賞 mimi-kaki mimi-kakiプロジェクト
猪子寿之審査員特別賞 みんなの電車ツアーズ たんきゅうドットコム
轟木啓介審査員特別賞 Map Mole News Network MMNN
百合本安彦審査員特別賞 腰帯.com 腰帯ドットコム

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