一見すると金融業界とベンチャー企業は直接リンクすることは少ないようにも思えるが、ベンチャーの活動原資がこれら業界からの出資金であることを考えれば、金融危機の影響を受けないとはまず言えない。資金の出資者はヘッジファンドのような会社に資金の運用を任せたり、あるいは今回のケースのようにベンチャー投資を専門に行うVCに資金を提供することでリターンを得る。VCは集めた資金をベンチャー企業に投資することで運用を行うが、そこで利益を得る最も典型的な手段は投資先ベンチャーのIPOか、M&Aによる株式売却である。株式を上場するIPOがゴールの1つではあるが(英語では「Exit」という表現が使われる)、たとえばMicrosoftのような大手企業に買収されることもゴールの1つである。ベンチャー企業がそれだけ魅力的であれば、IPOや買収でのリターンも大きい。だが例え企業が魅力的であっても、市場の情勢しだいでは通常得られるべき評価は得られず、価値は低く見積もられ、期待していたようなリターンは得られない。これが現状、シリコンバレー界隈を悩ませている最大の問題だ。数多のベンチャーが登場しては消え、これを繰り返すことが原動力となっていたシリコンバレーにとって、このサイクルが途絶えようとしている。

世界的金融"恐慌"の幕開けとも囁かれる米国の金融不安。NY・ウォール街の重たい空気はシリコンバレーのベンチャー企業にも深く影を落としている

こうした事情を裏付けるデータがある。WSJの「Pace of IPOs Globally Continues to Slow in Uncertain Climate」「No Exit: Venture-Tied IPOs, Mergers Dry Up」という記事によれば、2008年第3四半期にIPOを行った企業は世界で119社、調達資金の合計は78億ドルだったという。これは2008年第2四半期の241社で333億ドルというデータと比較して半分以下の水準で、1年前の2007年第3四半期の364社で493億ドルという数字よりさらに少ない。1995年より世界のIPO事情を調査しているDealogicによれば、2008年第3四半期は過去最もIPO件数が少なく、さらに調達資金ベースでいえば2003年第2四半期以来の最低水準だという。

第4四半期はさらに厳しい情勢になるとみられ、2008年はIPOにおいて過去最も厳しい年となりそうだ。2008年は第3四半期までの3四半期分を合わせたIPO件数が576件で、これは過去最低水準だった2003年の805件を下回る。地域別にみると最も悪影響を受けているのが欧州で、第3四半期のIPOは22件で前年同四半期の101件から78%下落している。調達資金ベースでは99億ドルから5億7900万ドルまで94%も激減しており、株式市場からの資金調達がほとんど機能していないことがわかる。だが欧州のケースでいえば、2007年のIPO市場が好調過ぎた反動があったともみられ、昨年までが実態以上に過熱していた可能性がある。いずれにせよ、調達資金ベースで倍増した中東・北アフリカなどのごく一部の地域を除けば、アジア市場や南米市場などを含む世界のほとんどの市場でIPO市場が壊滅状態にあるといえる。