SOAのエントリーポイント

現在のWebSphereの特徴を語るうえで外せないキーワードがSOAだ。今年発売された「IBM WebSphere Application Server V7.0」でも高性能なSOA基盤という点が強調されており、IBMでは「Smat SOA」というコンセプトの下、同テクノロジーを活用したソリューションを展開している。

とはいえ、国内においては、WebSphereに取り込まれて4年が経った今でも、SOAの普及が進んでいるとは言いがたい。その背景には、導入メリットが見えずらいというのも一因に挙げられるだろう。

これに対し、ベイ氏は、SOA導入の動機付けとなる次の5つの"エントリーポイント"を紹介。SOAがビジネスを加速させるのに適したアーキテクチャであることを改めて強調した。

  • 人: 日常業務とコラボレーションを改善するために、ユーザー・インタフェースを通じてより高い生産性と柔軟性を提供

  • プロセス: タスクをモジュラーなサービスとして扱うことを通じて、ビジネス・プロセスのイノベーションを実現

  • 情報: 情報をサービスとして扱うことで、ビジネスの文脈に信頼性の高い情報を提供

  • 再利用: 既存資産をサービス化し、新たな再利用可能サービスでポートフォリオのギャップを埋める

  • 接続性: オープンスタンダードに基づき、システムとユーザー、チャネルを接続

ビジネス上の3大テーマ

さらに、氏は、今日のビジネスにおける大きなテーマとして、「グリーンコンピューティングへの対応」「クラウドコンピューティングの活用」「ビジネスの俊敏性」の3つを挙げ、WebSphereではこれらの課題に容易に取り込めることを説明した。

グリーンコンピューティング

グリーンコンピューティングに対応するソリューションとして、現在IBMが提供しているのが「Green Sigma」である。

氏は、「最近では、CO2排出削減が声高に叫ばれているが、具体的な行動に出るためにはまず現在の状況を把握しなくてはならない」と説明。そのためのツールとして「Green Sigma Carbon Management Console」を提供していることを紹介した。

同ツールは「環境ダッシュボード」と称されるもので、各サーバの電力消費量やCO2排出量などをさまざまなグラフで可視化することができる。サーバ負荷とCO2排出量の関係を俊敏に把握し、効果的な対策を実施することが可能だという。

クラウドコンピューティング

ベイ氏は、米Gartnerの発表を引用し、「2012年にはほとんどの企業がなんらかのかたちでクラウドコンピューティングを活用することになる」と説明。その威力を十分に発揮できる環境を整えておく必要があると説いた。

そのための製品として「WebSphere Virtual Enterprise」「WebSphere eXtreme Scale」の2つを紹介。前者は、サーバ/ストレージ/ネットワークを越えた仮想化環境を提供するソフトウェアで、後者はハイパフォーマンスでスケーラブルなデータ中心アプリケーションを実現する柔軟なフレームワークである。

これらにより、「アプリケーションとインフラの仮想化およびデバイスの独立性を通じた高度にスケーラブルなサービスのプロビジョニングが行える環境を構築できる」(ベイ氏)という。

ビジネスの俊敏性

ベイ氏は、情報には複合的な視点で捉えて初めて問題が発覚するものもあると語る。

「例えば、個人の口座において、東京で現金の引き出し処理が行われた30分後に、ニューヨークのATMで再度引き出し処理が行われたとしたら、常識的に考えて異常な事態である。このようにビジネスにおいては、事象を個別に見ただけではわからないが、複合的に見ると気づくこともある」

こうした問題を解決するソリューションとして提供されているのが、「WebSphere Business Events」だ。同ソフトウェアを使用すると、各種のビジネスイベントに対して条件とアクションを簡単に設定することができる。上記の例で言えば、引き出し処理というイベントが発生した際に、直近の引き出し処理とその場所をチェックして、現実的に不可能な条件であれば、処理を中断するというアクションを設定できる。

こうしたかたちで複合的な視点からイベントをチェックして自動処理を増やしていけば、ビジネスの俊敏性が確保できる。被害を抑えたり、競争力を高めたりすることが可能になるはずだ。

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1人の開発者がたった5週間でプロトタイプを作り上げたことから始まったWebSphereだが、この10年間、Javaの成長を上回る勢いで進化を遂げ、現在では高度なビジネス要件を実現するSOA実行プラットフォームとして利用されるまでになった。今後、どのような機能が搭載され、ビジネスにどういった影響を与えていくのか。次の10年にも注目していきたい。