メリルリンチ日本証券 代表取締役社長 小林いずみ氏

続いて「ダイバーシティ-ポジティブスパイラルの創造」と題して行われた基調講演では、メリルリンチ日本証券代表取締役社長の小林いずみ氏が登壇。日本の証券会社で唯一の女性社長として、ダイバーシティに積極的に取り組む経営者のダイバーシティ観が語られた。

小林氏が日本法人を率いるメリルリンチ証券は、米国に拠点を置くグローバル企業で、社内には36カ国籍以上のスタッフが勤務しているという。しかし、「グローバル化は一部の企業、職種に限った話ではない」と小林氏は指摘する。「ここ最近、日本でもダイバーシティが叫ばれるようになったが、その背景には社会がグローバル化していることが挙げられる。さらに、少子高齢化による労働人口の減少で、ダイバーシティはどの組織にとっても無視できないところまで来ている」(小林氏)。

小林氏が定義するグローバル化は「向こうから押し寄せる。競争の渦の中に巻き込まれていく国際化」だという。これに対して「インターナショナル化は、あえて自分から出て行って世界を広くすること。能動的に作り上げるもの」だと説明する。つまり、グローバル化は望むと望まないに限らず受動的に社会や個人を侵食するもので、人々はこれをいかに受容し、対応していくかが求められるというのだ。さらに、日本の少子高齢化は「パートナーが亡くなった後の生存年数の平均は男性が3年、女性は20年」と小林氏が取り上げたデータが示すように、女性が圧倒的に多い社会になるというのも見逃すことのできないポイントだ。

一方、こうした社会変化の波の中、日本の社会はリスクを取らない風潮にあることを小林氏は危惧する。「世界には食べるものがない国があるのに、日本では賞味期限がどうとか、リスクを極力排除する傾向がある。生きていく限りリスクを取らない人生なんてあり得ない。リスクを排除することは、日本の国力を弱体化させる一因になる。変化の多い、これからの社会は、リスクをバネにして考えていく教育に転換すべき。グローバル社会において、どうやって自ら判断し、行動するかをいろんな視点を受け入れ、広げていくことが、今の社会の問題の解決のポイント」と、小林氏は提言を続けた。

小林氏はダイバーシティという観点からの日本人の姿を鋭く考察する。「日本社会は、同質であることを尊重する。そうでない場合は、異端と見なされ、村八分とかの原因にもなるので、周りと同じでならないという恐怖心を抱えながら生きている。しかし他方では、人と違うことができたらという思いも持っている。それができないなら皆と同じのほうが安心というのが本音ではないか」。しかし、国際競争に打ち勝ち、社会の生産性を維持していくために、多くの人が働かなければならない状況においては、こうした同質社会から決別し、多様性を受け入れることが不可欠だと小林氏は繰り返し強調する。

小林氏によると、ダイバーシティの実現の第一歩は「まず自分は何ができ、できないのかを見極める。自分を知ること」だという。さらに「自分自身の価値をはっきりと見定めた上で、他人の意見を聞き、自らも発信し、ぶつけ合い、個人を活かして多様な意見を取り入れるかにダイバーシティの真髄がある。多様化する社会にいろいろな視点を取り入れなければ企業は正しい選択ができなくなる」と述べ、縮小に向かう日本市場を発展させるためのカギがダイバーシティにある理由を説明した。

また、組織にとってだけではなく、ダイバーシティは、これからの社会を生き抜く上で個人にとっても重要なカギとなる。変化の激しい社会に対する小林氏の姿勢は実に割り切ったものだ。「起こっていないことを考えても仕方がない。企業も社会も変わってきている。今の現状で考えても答えは出せない。もっと世の中は変わるだろうし、リスクが発生したとき、その場になって自分が対応できるように鍛えるほうが将来選択肢を生む」と語り、「リスクに対するキャパシティを広げることと、ダイバーシティへの取り組みが表裏一体である」という自身の考えを示した。