リニューアルの効果とは
実際、アサヒ・コムのコンテンツには、朝日新聞には掲載されていないインタビューや記者会見、新製品発表などの記事が多数上がるようになった。記事に対して、写真や動画がふんだんに使われるようになったほか、同じ内容の記事であっても、整理部側で、紙とネットの媒体特性に合わせて見出しを変えるといった工夫を施している。
北元氏は、現場の記者の側でも、ネットを意識して取材にあたることが多くなったようだと話す。「取材にあたる記者は、一般に知られていない情報や世の中に訴えたい事実について、できるだけ多くの人に読んでもらいたいと思っている。新聞のほかに、アサヒ・コムを利用できるようになったことで、同じ記事でも、ネットと新聞とでは角度を変えて取材するようになった。特に、ベテランの記者ほど、記事に対する反響がページビューなどのかたちで得られることを喜んでいる」と、運営体制の変更がいい影響をもたらしていることを強調する。
そんな運営体制の変更から生まれ、すぐに具体的な成果を上げることができたコンテンツが、アサヒ・コム プレミアムで提供されているフォトギャラリーだという。全国各地の鉄道、自然、野生の動植物など、多種多様な写真を過去にさかのぼってまとめて提供できるのは、全国各地に記者を擁する新聞社ならではのものである。なかでも、鉄道や車、動植物は、年齢層を問わず、幅広い人気を博しているという。
ポータル・サイトとしてのアサヒ・コム
もっとも、新聞社のWebサイトに対しては、近年、新聞各社がそれぞれの取り組みを推進しており、朝日新聞社がサイトの運営体制を明確にしたことは、むしろ「ようやく」といった感もある。
北元氏は、他社が提供しているような、記事に読者がコメントできる機能や、読者が意見を交換するコミュニティ機能、記者自身によるブログなどといった取り組みについては、同社が運営する会員制サービス「アスパラクラブ」などの状況を踏まえつつ、これから検討していなければならない課題だとし、慎重な姿勢は崩さない。
また、同社と日本経済新聞、読売新聞とで共同で開始した「あらたにす」についても、アサヒ・コムとは異なる事業戦略のもとで展開していくものだと、あくまで独自路線へのこだわりを見せる。
しかしながら、アサヒ・コムが、慎重な姿勢で独自路線を貫きながらも、Web事業で黒字を確保し、利用者を伸ばしてきたことは紛れもない事実である。特に、新聞社が運営する数多くのニュース・サイトのなかでは、Yahoo! ニュースへの記事提供を見送り続けているほぼ唯一のサイトとして異彩を放っている。
北元氏に、なぜ大手ポータル・サイトに記事提供をしないのかと理由を尋ねると、「競合だからだ」と真剣な顔で答える。今回のリニューアルで幅広い読者を獲得できた際には、アサヒ・コムは、ポータル・サイトとしての地位を確立することになるかもしれない。