ようやく?決まった"嫁入り先"

統合開発環境の開発などを手がけてきたBorland Softwareは2000年代中期から戦略を転換、よりエンタープライズ向けのアプリケーションライフサイクルマネージメントを提供するサービスへと事業の重点をシフトさせていった。これを象徴するできごとが2年4ヵ月前の2006年2月8日(米国時間)に発表されたJBuilderプロダクトラインおよびBorland Developer Studioの売却模索のニュースだ。Borlandが開発環境の開発事業からエンタープライズレベルのサービス事業へと転換している様子を強く印象づけるものとなった。

現在のCodeGearのロゴは、Borlandからスピンアウトしたことを示すかのように"FROM Borland"としっかり記されている

しかし他社へ買収されることはなく、同開発部門はCodeGearとして同社で活動を継続することになった。CodeGearはBorlandにおける事業部と位置付けられるようになり、同じ企業にありながらも会計報告を別途計上し、経営もCodeGear単体で進めるなど独立した体制を築いていった。つまり法律上はひとつの企業だが、いつでも別会社として独立できるように準備を進めてきたわけだ。「CodeGear from Borland」という言葉には、このあたりの事情が色濃く反映されている。

そして5月7日(米国時間)、Embarcadero TechnologiesによるCodeGear買収が発表された。Embarcadero Technologiesは2,300万ドルでCodeGearを買収すると発表。買収作業の完了は6月30日(米国時間)が予定されている。買収模索の発表があってから2年3カ月、ようやくCodeGearは独立系ツールベンダとして確固たる場所を得た。

買収というより戦略的提携という認識

Embarcadero Technologies(エンバカデロ・テクノロジーズ)は日本ではそれほど知られていない企業だ。データベース関連のツールを提供している企業で、設計から開発、管理などの工程におけるデータベースツールやパフォーマンスプロファイラを提供している。CodeGearはJava、C/C++、Delphi、Ruby on Rails、PHP、.NETなどの統合開発環境を開発している企業。世界中に開発コミュニティを抱え、エコシステムを活かしながら積極的に開発を展開している。

両社がよく似た社風を持っているというのもあるが、今回の買収で最も注目されるのは、Embarcadero TechnologiesとCodeGearの保有しているポートフォリオにほとんど重複がないことと、シナジー効果によってより大きな効果が見込める点にある。買収後は非上場企業Embarcadero Technologiesとして経営を進めることになる。ブランド名はそのまま継続して使われる。

プロダクトポートフォリオという点で見れば、CodeGearはデータベース関連ツールを一気に手に入れることになり、Embarcadero Technologiesは多岐に渡る開発ツールを手に入れることになる。データベースと開発ツールは切っても切れない関係だ。プロダクトレベルですでに相乗効果が狙える。

市場という点で見れば、Embarcadero Technologiesは75%を米国市場に依存し、CodeGearでは60%が米国/カナダ以外の国や地域に依存している。つまり新生Embarcadero Technologiesは米国、カナダ、それ以外の国や地域に対して大きな市場を得ることになる。プロダクトに重複がほとんどないため販売活動へのシナジー効果も期待できる。

国際化という点でみれば、CodeGearが取り組んでいる国際化機能や翻訳の取り組みがそっくりそのままEmbarcadero Technologiesにも応用できるという点が興味深い。CodeGearの活動がEmbarcadero Technologiesに適用されることで、Embarcadero Technologiesのプロダクトが日本語化されるようになるだろう。

Embarcadero TechnologiesによってCodeGearが買収された形となっているが、CodeGearの認識としては合併であり、結果的にグローバル展開が可能な世界最大規模の独立系ツールベンダが誕生したことになるわけだ。