さて、前回のJavaOneで話題をさらったJavaFXはどうだっただろうか。セッションスケジュールを見る限り、BOFやHands-On Labを含めるとJavaFXに関連したセッションは実に30以上にも及んでいる。Sunがこのプロダクトに本腰を入れているという表れとも言えるだろう。

General SessionではJavaFXで作られたいくつかのアプリケーションが紹介されたが、その中で最も衝撃的だったのはFacebookウィジェットとして作成されたFlickr + Twitterブラウザ「LiveConnect」だろう。最初はブラウザ上でAppletとして動作していたLiveConnectだが、これをデスクトップ上にドラッグ&ドロップするとたちまちローカルで動くアプリケーションになってしまう。スクリプトを変更することなくさらにJavaFX Mobile端末上で動作させることができる。

また、LiveConnectがオープンなモバイル端末向けアプリケーションフレームワークである「Google Android」のエミュレータ上で動作する様子も紹介されている。Androidに搭載されているのは独自実装のJavaVMだが、このデモはJavaFXが普遍的に実行できることを示している。モバイル端末や組込み機器の分野に対しては競合するAdobe AIRやSilverlightなどもまだ確定的な強みを見せているとは言えない。それに対してJavaVMはすでに多くのデバイスに搭載されており、今後JavaFXを普及させていくための大きな武器になるかもしれない。

最も聴衆の耳目をあつめたデモはFacebookウィジェットがそのままローカルアプリケーションになるもの。SunはFacebookとさまざまな面で協力関係にあるが、こういった先進的な技術も率先して実装されている

JavaFXとそのランタイム環境。基本的にJava SE/MEの上で動く

JavaFXの応用例として興味深いもののひとつに、今回新しく発表された「Project Insight」がある。これはJavaFXを組み合わせて実現する、アプリケーションやコンテンツの配布に関する統計情報分析のフレームワークだそうだ。あるコンテンツをどのようなユーザが多く利用しているかや、どれくらいの時間利用しているか、どの機能を多く使っているかなどの情報を、JavaFXを利用して開発者にフィードバックするとのこと。要するに利用者の行動や意図を理解するためにRIAを利用しようというもので、効果的なマネタイズ手法を提供できる可能性を持つ。

今回はこれまで示されてこなかったJavaFXのリリース予定も発表されている。それによるとまず7月にJavaFX Desktop SDKのEarly AccessDesktop版が公開され、秋にJavaFX Desktop 1.0がリリースされる見通し。続いて、来年春頃にJavaFX Mobile 1.0およびJavaFX TV 1.0がリリースされる予定となっている。

もっとも、上記のように前向きなニュースばかりではない。すでにAdobe AIRやSilverlightに対して大きく遅れをとっている上、JavaFXが強みとしていきたいモバイル端末技術についても、Microsoft、Adobe両者は本腰を入れてきている。SilverlightについてはNokiaが同社の端末で採用することを決定しており、Adobe AIRもオープン化によってモバイル系システムでの採用を容易にすると発表している。

人材の問題も持ちあがっている。たとえば今年2月、Javaクライアント部門で中心的役割を果たしてきたChet Haase氏がSunを離れAdobeのFlex SDKチームに移籍している。またつい先日、デスクトップ部門で最高技術責任者を務めたHans Muller氏もSunを離れ、AdobeのFlexチームへ移籍した。相次ぐキーパーソンの流出はJavaFX陣営にとってこれ以上ないほどの痛手だろう。

その他、このJavaOneでJavaFXアプリケーションの実装例はたくさん見させてもらったが、それを開発するための満足な開発環境についてはついに目にすることはできなかった。今後12 - 18カ月の間にAdobeのツールをサポートしていくとの話だが、JavaOne参加者からの評判はあまりいいものとは言えない。

厳しい要素ばかり並べてしまったが、いちJava開発者、そしていちJavaFXファンとして、これらの追い風に負けずがんばってもらいたい。