BI活用の課題の1つ、それは「スキル不足」
三澤氏の意見にもあったが、日本は文化的な背景からBIに対する潜在的要求が低いという課題がある。またそれと同時に、BIを活用するためのスキルが不足しているという問題も存在する。ガートナーの堀内氏は「データの見方がわからないというスキル不足もさることながら、そもそも"見る気がない"という担当者もいる。今後欧米型に移行していくとして、こうしたスキル不足をいかに埋めていくかが課題」になると指摘する。
SASの宮田氏はBI導入のゴールを明確にし、その効果がハッキリと現れることが導入と活用へのモチベーションになると説明する。「なぜ情報活用を行うのかといえば、企業の決定プロセスの効率化にある。BIをもって何を実現するかが明確化できれば、ROI(Return On Investment)も明確になるだろう。少し前、One-to-Oneマーケティングというのが大きなブームとなったが、当時の課題はOne-to-Oneを実現するだけの膨大なコンピュータパワーが不足していたことだ。だが現在は違う。One-to-Oneマーケティングを活用すれば売上促進につながり、導入効果が早く出てくる」と同氏が言うように、明確なゴールと同時に、より効果が出やすいソリューションを意図して選択するのも1つの手だろう。
オラクルの三澤氏が指摘するのは、よりテクニカルな面でのスキル不足だ。「よくオラクルに持ち込まれる話に、"なんでデータウェアハウスがうまく動かないの?"というのがあり、オプティマイゼーション(最適化)がうまく行われていないケースが散見される。データベースの設計やチューニング、リアルタイムなウェアハウスの構築、テラデータの扱いといったスキルがないと、リアルタイムで動作するデータソースの構築は難しい。例えばデータ転送1つとっても、ちゃんとデータに圧縮をかけることでI/Oへの負担が軽減されパフォーマンスが向上する。これはあくまで一例だが、こうした基本事項を踏まえずに無茶な設計が行われたシステムも見られる。使えるシステムの構築にはコアの部分をきちんと設計することが重要で、このためのコンサルティングも提供している」と述べ、使えないシステムが出来上がる前に、プロフェッショナルの力を活用してほしいと訴える。
また同氏は続けて「さらには、それらデータソースからデータを取得して、担当者にいかにデータを適した形で見せるかにも相応のスキルが必要になる。その意味では、BIをどう使わせるかのアプリケーションが不足しているともいえるだろう。例えばKPI(Key Performance Indicator)など、ユーザーがこれを意識してアプリケーションを1から構築した場合、コスト的にも負担が高い。ベンダー側でアプリケーションを充実させることで、それはそのままユーザーのメリットになる」とアプリケーションの充実が1つの鍵であるとも述べている。一方でUIの問題も指摘しており、「Excelで集計や分析を行っているユーザーにBI、例えばHyperionのインタフェースをそのまま使わせるのは難しい。バックエンドはHyperionとしても、フロントエンド側には別の工夫が必要だろう。これに従来のソリューション(例えばOfficeなど)を流用することで教育負担が軽くなる」と述べ、ユーザーにアプリケーションをうまく利用してもらうことがベンダー共通の課題だという。
このアプローチに一番近いのがマイクロソフトだ。同社はSQL Serverをバックエンドに、フロントエンドにはOfficeやコンテンツレポジトリ/コラボレーションスイートのSharePoint Server、そしてミドル層の部分に新製品のPerformancePoint Serverという形で、BIソリューションの3階層モデルを構築している。同社米野氏は「BIは使えと言って使うものではない。そこがメールとの大きな違いだろう」と述べ、使わなければ業務が進まないといった性格のソリューションでもないことがBI普及阻害の一因になっていると予想する。「顧客プロファイルなど、企業内にはさまざまなデータがあり、それらお客が何者なのかを分析していくのがBIの本質。こうした視点がないと、その人の経験のみに基づいた一方的な見方になってしまう。こうしたものの捉え方こそがスキルなのではないか。企業にはさまざまな役割の人々がおり、各々の視点に基づいた分析がある。もしそれらを共有化できたらどうか。この"対話"がいわゆる最適化のフェイズとなる」と対話や情報共有の重要性を訴える。
マイクロソフトには前述のようなSharePointやPerofrmancePointといったソリューションがあるが、こうした情報共有の仕組みを提供していくのが重要だというのが同社の考えだ。Office製品も合わせ、ユーザーフレンドリーであり、BIを使わせるための仕掛けを積極的に提供していくというのが1つの鍵なのだろう。だが米野氏は最後に「必ずしもSharePointが正解というわけでなく、企業にとっては実はメールが最適な情報共有手段の場合もあるかもしれない。最適なソリューションを見つけることが重要だ」とも加える。
ベンダーが予測する次世代BIの姿とは?
今後時代のニーズとともにBIに対する要求も変化してくると考えられるが、ベンダーはこうした次世代BIについてどのように考えているのだろうか。
オラクル三澤氏は前述の「Operation ExcellenceからManagement Excellenceへ」という持論を述べつつ、そのためのトップダウン型のマネジメントツールが必要になるのではないかと説明する。ERPで業務改善を行いつつデータを蓄積し、それを可視化することでBIを実践している。これらを踏まえたうえで、いわゆるイノベーションを実践するのが上記のツールだというのだ。
またテクノロジー的な面では、現状ではすでに蓄積されたコミット済みのデータが分析の対象となっているが、今後はリアルタイムで業務内を飛び交っている非コミットなデータを可視化したいという需要も増えるのではと予測している。そのほか、マッシュアップやソーシャルツールなどのWeb 2.0的な技術の取り込み、そしてXBRL(eXtensible Business Reporting Language)といった会計データ標準にみられるようなXMLサポートなどが課題になると指摘する。
"対話"と"情報共有"の重要性を訴えるマイクロソフトの米野氏は、やはり「知恵の共有が1つの大きな方向性」だと指摘する。ネットワーク技術だけでなく、ドキュメント分析やBIの活用、ユーザーの定量的なデータ分析手段の提供、(最近米Microsoftが力を入れている)検索技術、サイトの活用事例など、そうしたノウハウを共有し、個人同士を結びつけていくための仕組みの提供がマイクロソフトの課題であり、同社の考える次世代BIの姿だという。
前2社が活用方法を中心とした話なのに対して、SASの宮田氏は「BIは意志決定のためにより重要となり、日々の業務改善のためのパーツの一部になる」と述べ、より自然な形でシステムに取り込まれるようになると予測する。同氏は昨今のERPベンダーによるBIベンダーの買収に触れ、「これも日々の業務プロセスにBIを取り込もうとする意識の表れ」とトレンドを分析する。今後はBIを意識せずにBIを活用することになるのではと持論を展開した。