学校、地域、家庭の調和が重要に
また、何故、ノーベル化学賞を受賞できたのかについては、「第1に運が良かった。もう1つは愚直なまでにファンダメンタル(基礎的な要因)なことをやり続けたため」(同)とした。
このファンダメンタルなことをやり続けるためには、本質的に良い問題を見つける必要がある。では、どうやってそのような問題を見つけるのか。それは、まず前提条件を疑うことにあるという。
そうした人物を作るためには学校、地域、家庭がそれぞれの役割を生かして総合的に教育するシステムを作る必要がある。
しかし、現在は学校教育が偏重されすぎていると指摘する。学校が教育に最大限努力をすることは当然だが、できることは自ずから限界がある。「学校教育は主に知育を与える場所だが、言ってみれば外的な能力向上法を与えているにすぎない。やはり一番大切なのは自ら能動的に実践して、暗黙知を地域や家庭を通して自ら実践していくこと」(同)と地域、家庭での取り組みが重要であるとし、「理科教育で言えば、家事手伝いが一番大きな効果をもたらすと思う」(同)とした。
なお、2010年の国際化学オリンピックのテーマは「Chemistry:the key to our future」であり、これについて野依氏は、「化学は単に自然を観察し理解するだけでなく、精密に制御された分子変換、化学反応を通して無から有を生む価値を創造する科学。現代化学の研究は、今まで知られている有用物質の生産に止まらず、人類の役に立つ新しい機能を持った物質を作り出すことができる。これはエネルギーの問題にも食料の問題にもつながってくる。現代社会は地球の枠組みを超える過大な人間活動の暴走によりあらゆる側面でほころびが見えているが、科学、そして化学は私達の未来を左右する重要な鍵を握るはず」とし、エネルギー溢れる若者の参加を心から期待しているとした。