2003年11月に中国の大手ポータルサイト「捜狐」がオンラインゲーム「ポータル17173」を買収したのを皮切りに、同国のオンラインゲーム業界は本格的なM&Aの時代に突入した。筆者の調べによると、これ以後今年9月13日までに行われたM&Aの件数は計23件で、総額約7億8,000ドルに達している。本レポートでは、代表的なM&A案件のケーススタディを通じ、中国におけるオンラインゲーム企業によるM&Aの概要、手法、さらには中国のオンラインゲーム産業にとってのM&Aの意味などを分析し、今後の動向を占ってみたい。
上記23件のM&A案件のうち、中国のオンラインゲーム最大手、上海盛大網絡発展(以下、盛大)による案件は5件あり、金額でも2億ドルを超えている。
M&Aの件数と金額の双方において、盛大は中国オンラインゲーム業界で群を抜いた存在だ。2004年11月、盛大は9,170万ドルで韓国のオンラインゲーム開発企業ActozSoft(以下、Actoz)の発行済み株式の29%を取得し、筆頭株主になった。今年7月初めに、盛大はActozの50%以上の株式を取得済みと公表したが、持ち株比率を29%から50%以上に引き上げるために支払った具体的金額については言及しなかった。
2001年9月、盛大は「最後の30万ドル」と噂された大枚をはたき、Actozからオンラインゲーム「伝奇2」の中国での独占代理権を獲得した。盛大はそれこそ企業としての生死を「伝奇2」にかけ、全力で運営に取り組んだ。1年後の2002年9月末になると、「伝奇2」は登録ユーザー7,000万人、同時オンラインユーザー60万人という莫大な数のプレーヤーを獲得、盛大に6億人民元以上(約90億円)とも言われる収益をあげ、名実ともに盛大のドル箱となった。その後、盛大の成功モデルに触発され、韓国など外国企業が開発したゲームを中国で運営しようとする中国企業が急増したのだった。
「伝奇2」めぐり韓国企業と法廷闘争、水面下で交渉も
だがちょうどその同じ時期、「伝奇2」のソースコードが漏洩し、公式ポータルサイトよりも安い料金、あるいは無料で利用できる「プライベートサーバ」を設置するネットカフェやオンラインゲーム企業が中国国内で数多く出現した。盛大の独占代理権はこれらのサーバの出現で著しく侵害され、収益の大幅減を余儀なくされた。盛大はソースコード漏洩の責任がActozにあるとして、同社に善処を求めつつ、2002年7月以降のライセンス料支払いを拒否した。これを受け、2003年の1月末、Actozはライセンス料不払いを理由に、盛大の独占代理権を無効とした。2月初めになって盛大は上記の経緯を公表、2月中旬には独自開発したオンラインゲーム「伝奇世界」をリリースしたのだった。
また、Actozが筆頭株主である韓国のオンラインゲーム開発企業Wemadeは、伝奇世界に関する一連の調査を開始し、2003年12月初め、自社の著作権を侵害されたとして盛大を起訴した。これに先立ち、2003年7月には盛大がActozとWemadeを相手取り、賠償を求める仲裁を起こしており、両陣営の紛争は文字通り泥沼化の様相を呈するようになった。
しかし、そこはビジネスだ。実際には水面下の交渉も継続していた。Actoz、Wemadeは他のオンラインゲーム企業に対しても「伝奇3」「A3」の代理権を与え、盛大の独占代理権と収益源は非常に不安定な状況に置かれていた。こうした状況は2004年5月に盛大が株式上場をする際にもマイナス材料となった。この泥沼の争いは、2年半近くも長引いた交渉の末、盛大がActozに資本参加し、筆頭株主になることで終止符が打たれたのだった。
「資本力」を武器に「一石四鳥」の効果
盛大によるActozへの資本参加には、以下の「一石四鳥」の効果があったと言える。
- 伝奇2の独占代理権を確実なものにして、収益源を確保した。
- Actoz経由でWemadeの株主となり、伝奇世界をめぐる著作権紛争にピリオドが打てた。
- Actozの筆頭株主、Wemadeの株主という強力なポジションを獲得し、伝奇3などを運営する国内の競合相手に対する発言権や影響力を確保した。
- 資本参加とその後の買収により、ActozとWemadeを開発拠点として傘下に収め、オリジナルゲーム開発の能力と基盤を一段と強化させることができた。
盛大によるActozへの資本参加と買収は、中国のオンラインゲーム企業による外国企業に対する初のM&A案件であっただけに、その後のM&A展開に大きな影響を与えた。とりわけその「一石四鳥」の戦略的効果が、中国オンラインゲーム企業に対する大きな啓発効果をもたらした。その効果とは第1に、単純に外国のゲームを代理運営する経営モデルでは開発企業に頼りすぎるという致命的な欠陥がある点を明らかにし、経営モデルの再編と独自開発を重視する姿勢が重要であることを示したことにある。
第2に、外国企業との間で、代理権や著作権などをめぐり発生するトラブルや訴訟、あるいは競合相手との競争や摩擦を解決する方策として、「資本力」を戦略的に活用することの有効性を示した。第3に、資本参加や買収を通じ、外国のオンラインゲーム開発企業を開発拠点とし、短期間で開発力を向上させるという「近道」があることを知らしめたのだった。