Eコマースでクレジットカードは当たり前に

次にMangiagalli氏は、これとオンラインショッピング(Eコマース)とを比較してみせた。Eコマースは現在、黎明期と成熟段階の間にあり、いまだに急激に伸びている。モバイルコマースの年間80億ドルという市場規模は、欧州のみのEコマース市場における4月単月の取引高と同じという。

Eコマースについて、Visaは「ラッキーだった」とMangiagalli氏。オンラインショッピングでは現金は使えないし、グローバルだ。ここでは、グローバルな決済システムを持つVisaとMasterCardがデフォルトの決済方法となった。Visaは早くからオンラインショッピングの潜在性に対応しており、現在、50%以上のシェアを持つという。

NFCが実現するモバイル決済

それでは、黎明期にあるモバイルに進出するにあたり、Visaの戦略はどのようなものだろうか。Mangiagalli氏は当初フォーカスしている技術として、NFC(Near Field Communication)を挙げた。

NFCは、ソニーとオランダPhilipsが開発した近距離無線通信標準で、日本のおサイフケータイでも用いられている技術だ。Visaは、Nokia、ソニーらが立ち上げたNFC Forumに参加し、NFCの開発や普及を支援している。

NFCのコンセプトは、決済ではなくデータや情報の伝達も含まれる。携帯電話で撮った写真を相手の携帯電話にタッチして送る、そのようなことを実現する技術だ。しかし、インタフェースはVisaなどのクレジットカードが利用する非接触カードと同じであるため、VisaはNFCを推進しているとMangiagalli氏は説明した。実際、Nokiaの携帯電話でVisaのNFCアプリケーションを試したところ、問題なく動作したという。つまり、携帯電話をVisaの非接触端末にすることは技術的には可能ということになる。

しかし、技術面だけでは不完全だ。課題はある。

大きな課題は普及だ。現在、クレジットカードは銀行などの金融機関が発行する。だが、Visa非接触端末としての携帯電話ではエコシステムが異なる。携帯電話を購入するとき、ユーザーは決済端末としての選択は行わない。電話として購入した端末にどのように決済機能を組み込んでもらうかが課題だ。

中国やインドなどでは、クレジットカードそのものが普及していないので簡単だ。だが、すでにクレジットカードが普及している国では状況が異なる。欧州では、クレジットカードの発行枚数は携帯電話の台数を上回っており、ユーザーはすでに1枚以上のクレジットカードを持っている。このユーザーに携帯電話を使って決済してもらうにはどうすればよいか。

Mangiagalli氏は、Visaをはじめ金融機関は「大きな投資を行ってでも、ユーザーにモバイル決済を利用してもらう必要がある」と確信している。携帯電話などのモバイル機器は果てしない可能性を持っている。世代が新しくなるほど、利用は進むだろう。そのため、Visaなどの金融機関はモバイル市場で明確なポジションを確保する必要があるからだ。それには、「リッチなインタフェースとまったく新しい価値を提供すること」が必要だとMangiagalli氏は言う。

Visaがここで構築したのがコンセプト的アーキテクチャ「Visa Mobile Platform」だ。ビジネスレイヤと技術レイヤの2層構造を持つもので、ビジネスレイヤはサービス定義、オペレーティングルール、ブランドルール、リスクマネジメントなどビジネスツール群で構成され、技術レイヤは仕様、ソフトウェア、ベンダーの参加、サービスサポート、VisaNetで構成される。

「Visa Mobile Platform」の概要

このプラットフォームは時間をかけて推進していくものであり、現在は、携帯電話を自分専用の決済端末にするというフェイズ1にあるという。ここでは、ユーザーが銀行に連絡することで、携帯電話で決済システムを利用できるようにする。具体的には、銀行に連絡し、自分の携帯電話番号を言えば、銀行は同プラットフォームを利用してVisaの決済アプリケーションをリモートから安全にアクティベーションするなどのことを想定しているという。

フェイズ2は、統合である。携帯電話にあるユーザー情報を利用して、モバイルでオンラインショッピングする際にカード番号などの入力なしに1クリックで決済すること。これが、ユーザー側では物理的にショッピングするのと同じような感覚で行われる必要がある、とMangiagalli氏は強調する。ここではユーザーの啓蒙、信頼が不可欠だという。

Mangiagalli氏によると、Visaはスポンサーでもある2012年のロンドンオリンピックを大きなターゲットとしているという。「ヒースロー空港に着き、タクシーに乗り、ホテルにチェックインし、サンドイッチを買い、チケットを購入して地下鉄でスタジアムに行く――これがすべてをキャッシュレスで実現できるようにしたい」とMangiagalli氏は述べた。