最後に、NPO法人である東京都地域婦人団体連盟の長田氏が、消費者、未成年者の保護者としての立場から意見を述べた。長田氏はまず、インターネット上の有害コンテンツに関して「保護者の多くが不安に思っている」と指摘。2007年上半期において、児童の性的被害に関わる事件が、出会い系サイトに関わる事件の検挙数全体の76%を占めていることを例に挙げ、「事業者が自主的に行っている違法・有害コンテンツへの対応について、なんらかの法的根拠が必要」と主張した。
しかし一方では、婦人団体連盟の会員の多くが、国民に対する情報統制が行われた戦前戦中の時代を経験し、「国による情報規制は怖いよね」という認識で共通する会員が多いと指摘。「何が有害情報であるかを、国が判断する制度であってはいけない」と強調した。
また、堀部座長から「フィルタリングサービスの認知度が進んでも、なかなか実際の導入に結びつかない理由は何か」と質問された際には、「保護者の『わが子は大丈夫』という思い込みと、使い勝手の悪さによる子供の拒絶反応が原因ではないか」と回答した。
消費者保護ルールの明確化求める
長田氏はまた、消費者の立場から、「電気通信・放送における消費者被害は年々増加傾向にあり、解決困難なものも増えている」とし、その理由として「複雑なサービスや条件を丁寧な説明なしに理解することは消費者にとっては困難」であることを挙げた。
その上で、「現行法制では契約の取り消しなどが難しい」などの問題点を指摘し、「放送と通信の融合法制では、ぜひ、消費者保護ルールを明確化してほしい」と意見を述べた。
以上において、情報通信法の中間取りまとめ案に関する4回にわたる公開ヒアリングは終了したわけだが、放送業界を初め、同案に関する多くの批判の声が聞かれた。
そうした声の中には、静岡大学の赤尾晃一准教授が指摘したように、垂直統合型事業モデルの解体によって既得権益を侵される各業界の恐れから発せられたと考えられる声や、放送や通信の内容に対して国家による関与が行われるのではないかという声が混在している。
今我々に求められていることは、こうした声を丹念に拾い上げ、複雑に見える論点を整理し、より冷静な議論を深めていくことにある。
4回の公開ヒアリングで示された多くの論点の中でも、特に印象に残ったのが、東京都地域婦人団体連盟の長田氏が紹介した、「国家による情報の規制は怖いよね」という同連盟の会員の声だった。その声には、歴史の教訓をいかそうという、庶民の知恵と願いがこめられている。
NTTの民営化で目指されたものは何であったかなども含め、経済的、技術的、法律的な視点に加え、歴史的な視点も交えて議論を進めていくことこそ、総務省の研究会の構成員や、我々国民に求められているのではないだろうか。