セキュリティには、対策に費用や時間など大きなコストをかけることになる。その出費のリスクに対する心理も確率を狂わすトリックになる。

  1. 入場料10ドルの遊園地に遊びに行き、入園しようとした時に10ドル札を1枚なくしたことに気づいた。それでも10ドルを入園料に支払うか?
  2. 入場料10ドルの遊園地に遊びに行き、入園しようとした時に購入したチケットをなくしたことに気づいた。10ドルを払ってもう一枚チケットを買うか?

コストという点では、(1)と(2)は全く同じ状況である。ところが(1)のケースでは88%がチケットを買うとしたのに対して、(2)は46%にとどまった。

もう一つ。暑い夏の日、友達が遊びにくるついでに代金を払うならビールを買ってきてくれるという。そこで回答者を2つのグループに分けて、同じビールを、グループAに対してはリゾートホテルから、グループBには街のコンビニから買ってくるという条件で、「さて、ビール1本にいくら払うか?」と質問した。

結果は、リゾートホテルの方は2.65ドル、コンビニは1.50ドルだったそうだ。経験からコンビニよりリゾートホテルで買うビールの方が高いと認識しているから、同じビールに対する予算が異なる。

Schneier氏によると、コスト心理にはまだまだ数多くのナゾがあるという。ただ、あるコストと違うコストをきちんと区別した方が安全だという心理が確実に存在するという。だから同じ10ドルの損失でも、何にでも使える10ドルをなくした場合はチケットを買おうとするが、同じチケットを2回続けて買うのには抵抗が出てくる。また同じビールであっても、コストを区別する心理があるから、購入の状況に応じた適切なコストを支払おうとする。

ただ、そのような心理を悪用することも可能だ。なぜバンジージャンプの台がラスベガスやアトラクションパークに設置されているのか? 普段は数10ドルを支払ってバンジージャンプなどという危険なことをしようと思わない人でも、バケーション中なら浮かれて記念に挑戦したくなる。人々は同程度のリスクであっても、あるリスクと別のリスクを同じように受け止めない。そこに攻撃の糸口が生まれる。