日本をコンテンツ流通のハブに

さらに、同省がグローバル戦略の目玉として考えているのが、国内のマーケットプレイス構築を目指すイベント「JAPAN国際コンテンツフェスティバル」である。同フェスティバルは、「東京国際映画祭」「東京ゲームショウ」「秋葉原エンタ祭り」「東京アジア・ミュージックマーケット」などのコンテンツイベントの総称で、今年の9月19日から10月28日にかけて開催される。コンテンツ流通のハブになることを狙いに、国内外のコンテンツを世界に発信。これまでの各イベントにビジネスの要素をより加え、新しいマーケットを生み出すことを目的としている。

フェスティバル期間中の10月2日から6日には、コンテンツではなくハードウェアの見本市である「CEATEC JAPAN 2007」が開催されるが、ここでも先進的なハードウェアを通じて視聴することのできるコンテンツが併せて展示される予定。「技術革新に対応するために必要性が増している"ハードとソフトの連携・融合"にとっても、非常に意義深いイベントとなる」(井上氏)という。

コンテンツグローバル戦略では、コンテンツのグローバル化促進のために多様なプレーヤーの参入と連携による「バリューチェーン」の再構築が必要と提言している

「バリューチェーン」の再構築においては、従来のコンテンツ流通の弾力化が必要だ。井上氏は現在のコンテンツ流通に際して、「テレビ放送が圧倒的な力を持ち、テレビ放送を通さないと、コンテンツになかなか目が触れない仕組みになっている。ネット発のアニメ『やわらか戦車』のようなロングテール型コンテンツがもっと世に出る仕組みを作らなければならない」と強調する。

このため、経済産業省が今秋構築しようとしているのが「ネットコンテンツの製作・投資促進のためのマーケット」。製作だけでなく、資金供給も含めた総合的な機能を持たせるのが狙いだ。また、同マーケットにはインキュベーション機能も持たせ、ダイヤの原石となるコンテンツを、プロの指導の下、市場に通用にするものに磨き上げる役割も持たせたいとしている。

放送局コンテンツのグローバル化も課題

一方、6月に総務省研究会の中間とりまとめ案が通信・放送に関する新しい法体系を示し、その中では、放送だけでなくホームページなどの「公然通信」に対しても一定のコンテンツ規制が必要という方針が含まれていたが、どう影響するのか。井上氏は「何が有害かを国が決めるのは、あまり効果的ではない。法令で縛るのではなく、民間のガイドラインに沿って業界が自主的な規制を行うのが、コンテンツ流通には有効だと思う」と否定的だ。

「放送局のコンテンツをグローバル化の流れの中でどう生かすかも課題」と語る井上氏

また同案では、従来の地上波放送の枠組みをほぼ残すとしているが、井上氏は「従来の枠組みは国内市場向けの要素が強い。日本の放送局は海外へのコンテンツ広告から得られる売り上げは1%にも満たないところがほとんどで、広告収入に依存するビジネスモデル。再利用を積極的に行うなど、放送局のコンテンツをもっと生かす方法を考えたほうがいいのでは」と提言する。

日本のコンテンツの強みは、映画、アニメ、小説、マンガ、音楽、ゲームと、全てのジャンルで平均以上の水準を保っている「マルチコンテンツの力」にあり、プラットフォームの融合が進むと、他国よりも高い相乗効果を発揮することが期待される。また、コンテンツだけでなく、ハードウェア技術やブロードバンド環境など、技術・インフラの力もあわせ持っている。

経済産業省では、コンテンツ産業の市場規模を2015年までに18兆7,000億円にすることを目標(2006年6月同省発表「新経済成長戦略」)としており、一連の施策もその一環。「『国内志向』を排し、海外に目を向けることで、日本のコンテンツ産業のさらなる発展のきっかけとなる」(井上氏)としている。

日本が持つコンテンツの力を発揮するためにどういう政策や制度が必要か、あるいは望ましくないのか。よりよいコンテンツを生み出し、また共有するため、我々が考えなければならないことは何か、今後も議論を深めていきたい。