次のステップは、「ユーザーごと、チームごと、部門ごとに必要な情報だけを抽出したコックピットを作る」ことです。「コックピット」の狙いは、「PCに拘束される時間を最小化し、考察する時間や、直接対話の時間を増やす」ことにあります。セキュリティや安全、効率を維持するためには仕組みの工夫も重要ですが、それだけでは万全とはいえません。実は、対策というものは本質的には「予想される事態に対する対応策」でしかないのです。予想外/想定外の事態には対策を用意しておくことはできません。こうした状況に適切に対応するためには、倫理観や注意喚起など、人の意識や気持ち、訓練といったアナログな要素が重要になってきます。つまり、こうしたアナログ要素の質を向上させる取り組みが必要になってくるのです。

日本の企業組織の中で、課長や部長といった中間管理職が、現在もっとも考察する時間を確保できていないのではないかという思いがあります。上下からいろいろ言われ、対応だけで手一杯になっています。さらに、交通費の決済といった「付随業務/雑務」にも追われます。このレベルの人は秘書などいないことが普通なので、こうした雑多な処理もすべて自分でやらざるを得ません。

本来なら、この立場の人は、トップマネジメントが示した「戦略」を、現場レベルでどう具現化し、現場の人をどう動かしていくかという「戦術」に置き換えていく役割を担う立場なのですが、考察の時間が足りないのです。日本の組織の強みは、伝統的に「経営力」ではなく「現場力」だったと思います。そして、その現場力を支えていたのがこの中間管理層だったのです。しかし、現在ではこの層が「情報とコミュニケーションの洪水」の被害をもっとも深刻に被っているのです。

内部統制も、本来は中間管理層が主体的に実施しないと実現不可能でしょう。変化が激しい時代と言われて久しく、意識を変える必要があると繰り返し指摘されてはいますが、実際には意識を変えるための「考える時間」が足りないのが現状です。内部統制も、当事者であるひとりひとりが意識を変えて取り組む必要があるにもかかわらず、日々情報に追われ続けているのが問題です。

固定的に繰り返されることに関してはルール化もできますし、マニュアル化も可能です。しかし、突発的な事態に適切に対応するには、現場の個々人がその都度適切な判断を下す必要があります。そのためには、本質的な認識、本質的な価値といった「企業文化」を全員が身につけていることが求められるでしょう。判断の根拠となる価値観を定着させ、共有していくことで、自律的な判断が可能になります。こうした状況を実現するには、人が介在する非定形な業務を包括してサポートするITツールが重要な役割を担うと考えています。