「Photoshop」と「Photoshop Extended」、2つのPhotoshop
今回のリリースで、以前から噂のあった「Photoshop Extended」という上位製品がPhotoshopシリーズに加わった。「ビデオCG系、建築系、医療系それぞれに特化した機能が入っていると思っていただければよいかと思います。Photoshopというのは、クリエイターの方、デザイナーの方だけではなく、様々な分野の方々に使っていただいています。そういう各分野のプロフェッショナルの方々が必要としていた機能がPhotoshopで可能になった製品がExtendedです」と栃谷氏はいう。つまり、3D及びモーショングラフィクスの編集や2D / 3D解析ツール、DICOMフォーマットのサポートなど、映像系、ビデオ系、建築系、医療系など、各分野でのプロフェッショナルのニーズに応えたのがExtendedということになる。
では、ニーズに応える形でExtendedが追加されたというのであれば、これから先、他にも種類が増える可能性があるのか? という問いに関しては、「今の段階で先のことはわかりませんが、現在では入門的なPhotoshopとしての「Photoshop Elements」があり、フォトグラファー向けのツールとして「Lightroom」がありと、Photoshopのファミリー製品は、お客様のニーズに合わせた形でのラインアップになっています。ですから、今回のExtendedに関していえば、これを使うことによって、いろいろな分野の方のビジネスの広がりが増えるチャンスと思っていただいて、よいのではないでしょうか」とのこと。Extendedの登場は、カバーするユーザ層が拡大しつつあるPhotoshopそのものが細分化、あるいは専門化してゆくという兆しなのかもしれない。
ファミリー製品といえば、「CS3」に同梱される「Bridge」と今年の初めにリリースされた「Lightroom」とは、どのように差別化しているのか、その辺を詳しく訊いてみると、「基本的にLightroomは、その名の通りフォトグラファー向けのツールで、写真の管理、セレクト、現像、公開までを一本で可能にした非常に便利なソフトです。それに対し「Bridge」は「Creative Suite」の製品群の中でのコントロールセンターとしての役割を持っていて、正直フォトグラファー向けとしては必要ない機能もあるわけです。フォトグラファー側からみると、「Bridge」での作業というのは基本的にブラウジングであり、「Lightroom」はブラウジングも一機能としてできるマネジメントが可能なソフトというスタンスを持っています。その辺が「Bridge」との差別化になっています」なのだそうだ。
ちなみに、Web版のPhotoshopがリリースされる、という話が先日も流れていたようですが……と訊いてみたところ、「いや、パッケージ版も未だ出ていないのに、勘弁してくれ、という感じですね(笑)。Webアプリになる、すなわち無償で配布するということは、いまのところありません」という答えだった。
こうして画面を比較してみると、BridgeとLightroomは、似て非なる点が多い。Bridgeは基本的に「Creative Suite」のコントロールセンターとしての役割を持つ。 * このパッケージショットやスクリーンショットは、Adobe systems Incorporated の許諾を得て使用しています。 |
DICOMフォーマットを読めるということの日本における革新?
Extendedに関して言えば、重要なポイントとして「DICOM」フォーマットが直接読み込めるという点が挙げられる。やはりExtendedにのみ追加されたカウントツールと併用することにより、従来では考えられなかった医療分野でのPhotoshopの活用が期待される。
これは医療系のユーザにとっては革新的な機能として受け取るべきものかもしれない。というのも、米国では医者がDICOMフォーマットを自分のパソコンで利用するというのは当たり前になってきているが、日本でDICOMフォーマットをユーザが自分のパソコンに取り込んで利用するというケースはほとんどない。なぜかといえば、日本では、DICOMシステムからパソコンに直接データを送信するソリューションの提供がほとんどないため、PhotoshopがDICOMフォーマットを扱えるようになっても実際には利用することができないからだ。この辺の事情については、また別の機会に採り上げたいと思っているが、今回、Photoshop Extendedで対応したDICOMフォーマットのハンドリングは、日本における医療業界の状況を変えてゆくきっかけとなる可能性を秘めているかもしれない。今後の動きに期待したい。
最後に、筆者もグラフィックを扱う仕事をしている一人として、Photoshopというのはすでに欠かす事のできない道具としてワークフローの中に定着している。そして、バージョンナンバーがついに10になったその長い歴史の中で、いつもダイナミックに変化し、グラフィックに関する作業スタイルを革新してきたPhotoshopは、今回のバージョンアップにおいてもユーザインタフェースの変化やExtendedの新機能など、専門分野への対応も充実させた。ユーザから見るとプログラム自体が肥大化しつつあるようにも感じるが、ニーズに合わせたファミリー製品を用意することによって、アドビではその問題にも対処している。CS3は、そう言った流れの中で正しい進化を遂げていることを、今回のインタビューの中で改めて確認できた気がする。