空冷だとかなり熱いが……
このようにG-Tune H5-LCは空冷設定でも普通に使えるが、水冷ボックスと組み合わせることでパフォーマンスが向上する。動画エンコードやゲームのように負荷の高い処理では、水冷運用にすることで明確なパフォーマンス向上が得られる。では実際に空冷と水冷で、どの程度温度に違いが出て、動作クロックなどがどう変わるのかチェックしてみたい。
まずはHandbrakeによるエンコード中のCPUやGPUの温度やクロック等を「HWiNFO Pro」を利用して追跡してみよう。検証時の室温は約29℃である。以下のグラフは前掲のHandbrakeベンチマークと同じ処理をさせた時の様子である。
まずCPU/GPU温度だが、空冷時のCPU温度は負荷開始から一気に90℃を突破し、最終的に94~95℃あたりで上下するようになるのに対し、水冷ボックスを装着すると60%設定で最大10℃程度、40%設定で5℃程度下がる。このテストではGPUはほぼ使われないため温度も上がらないが、空冷時でおよそ63℃なのに対し水冷時は46~49℃と一気に下がった。
ちなみに空冷時は温度が上がりすぎてコアの一部が長時間サーマルスロットリングに入りっぱなしになるが、水冷60%ではサーマルスロットリングに移行することはなくなる。水冷40%ではサーマルスロットリングに移行することもあるが、頻度は低く、移行しても一瞬(長くて3秒程度)で通常状態に戻る。
CPUクロックの推移も冷却力が高い水冷運用時の方がより高いクロックで稼働することが示されている。空冷時は処理開始から徐々にクロックが下がり、3.2GHzあたりまで低下するのに対し、水冷ボックスを利用すると3.5GHzあたりで踏ん張るようになる。
さらに水冷60%と40%ではCPUのクロックに大差はないが、これは先のエンコード時間に違いがないことと一致する。ちなみにGPUクロックはどの条件でもグラフ下の方、210MHzを維持し続けている(=GPUはほとんど働いていない)。
上のグラフはHandbrakeでエンコードしている最中にCPUやGPUがどの程度の電力を消費しているかを示すものだ(CPUやGPU内センサの値からの推測値なので、実測値ではない)。今回の観測結果によれば、空冷時は85W程度にとどまるが、これは熱の問題でパワーが抑制されていることを示している。水冷運用すれば105Wからほとんど落ちることはない。
空冷運用ではCore i9-12900Hのパワーをフルに発揮できないと言い換えられるが、これは今の薄型ノートPCが共通に抱える弱点だ。これをセパレート式水冷ボックスで解決しようというG-Tune H5-LCの脳筋解決法は至って正しい。
次はゲーム(Ghostwire: Tokyo)をプレイしている最中に、CPUやGPUの状態が空冷と水冷でどう変わるのかチェックしてみよう。先のエンコード時と同じ手法で各データを取得している。
まずCPU温度はエンコード中より若干低くなったが、ここでも空冷が最も高く90℃付近を占めている。続いて水冷40%、水冷60%と続くが、空冷と水冷60%の差は最大で15~17℃異なるのは驚きだ。
またGPUも空冷時が87℃に対し、水冷60%で63℃と、こちらも大きな差が付いている。GPU温度では水冷40%と60%の差が小さい(差は2~3℃)割にCPU温度は大きい(差は5~7℃)ようだ。空冷時はサーマルスロットリングが多数のコアで発生しており、これがフレームレートの差になって表れたようだ。
次は温度推移だが、ゲーム中なのでGPU温度にも大きな差が付いているのに注目。GPUの水冷40%のラインが見えないのは、水冷60%の温度とほとんど差が出ていないためだ。
空冷時のGPUクロックは1500MHz近辺であるのに対し、水冷時はどちらも1700MHzあたりで安定している。さらにCPUのクロックは空冷時だと激しく落ち込むなど、超重量級ゲームをフルパワーで動かすには冷却力が不足していることを意味している。
上のグラフはゲーム中のCPU Package PowerとGPU Powerの推移を示したものだ。G-Tune H5-LCの場合動作クロックはCPUの方が高いのだが、チップが消費する電力はGPU(RTX 3070 Ti)の方が高い。
そしてGPU Powerは空冷時で120W前後で変動するが、水冷ボックスを利用することでG-Tune H5-LCのGPUパワー設定である125Wをほぼ常時維持している。そしてCPUのPackage Powerは空冷と水冷で20Wも差が出ているなど、水冷運用することで性能の絞り出し方がガラリと変化していることが分かる。ノートPCで最高のパフォーマンスを出すには、HC-L5の水冷ボックスは極めて合理的なソリューションといえる。
水冷化最大のメリットはファンノイズ抑制効果
以上のように「G-Tune H5-LC」は空冷でも使えるが、水冷ボックスと組み合わせることで発熱が抑制され、特にグラフィックスのパフォーマンスが上昇する。では静音性はどうだろうか?
そこでアイドル時(起動から10分放置後)、ゲーム中(Ghostwire: Tokyoをプレイ状態で10分放置後)、エンコード時(Handbrake処理開始から約10分後)のファンノイズを計測してみた。暗騒音約35dBA(エアコン含)、室温約29℃の環境において、Smart Sensor製の騒音計「AR814」のマイク先端を本体の一番手前に設置して測定した。水冷ユニットは本体の右側に設置している。
G-Tune H5-LCを水冷運用する際のデメリット水冷ボックス分の設置スペースもあるが、アイドル時にも冷却水を冷やすためのファンノイズが常時聞こえることだ。空冷でアイドル状態だと非常に静かだが、水冷運用時は常時ファンノイズが聞こえる。水冷40%設定だとほとんど気にならないが、水冷60%設定ではファンの回転音がはっきりと聞こえてくる。
ここでG-Tune H5-LCに負荷をかけると空冷時のファンノイズが水冷時のそれを大きく超える。特にCPUとGPUに負荷がかかるゲームでは、空冷だとヘッドセットを付けないとゲームのサウンドの聴き取りすら難しくなるほどだ。空冷時は薄型のファンが超高回転で回るためだが、水冷化すると“音の圧力”が一気に下がる。ゲーム中の快適さを重視するなら水冷40%設定がオススメだ。水冷ボックスを接続しても最終的にHC-L5本体のファンも回転し始めるが、空冷時よりも圧倒的に音が小さい。
これだけではファンノイズの“うっとうしさ”が伝わらないので、高負荷時にどの周波数の音がどの程度強く出ているかを、スペクトラムで観察してみよう。iPhone 13 Pro上のアプリ「SpectrumView」を利用し、iPhoneのマイクを騒音計と同じ位置において計測した。次の3枚の図は、いずれもゲーム中のファンノイズをスペクトラムで見た結果となる。縦軸が周波数を示し、色がより明るい部分が「その周波数成分が強い」ことを示している。
空冷時のスペクトラムはほぼ全体が明るい水色で埋まっている。つまりあらゆる周波数帯のエネルギーが高く、非常に“騒々しい”状況といえる。しかし水冷ボックスを利用すると水色の部分(周波数成分がより強い部分)の出方が完全に変わってくる。
水色部分の濃い部分は水冷60%と40%で異なるが、60%時の方がより下の部分に水色が滞留しているのは、水冷ボックスの発する低音成分の多いファンノイズがより大きい事を示している。
水冷40%時では低音成分がより弱いが、3000Hz付近に明瞭な帯が出ている。これは水冷ボックスのファン回転数を下げたことにより冷却力が若干低下し、それを補うためにG-Tune H5-LCのファンがより高回転で回っていることを示している。
まとめ:ユーザーは選ぶものの、サイズとパフォーマンスのバランスは特筆すべきものがある
以上でG-Tune H5-LCのレビューは終了だ。水冷ボックスを使わない場合は同社がこれまで出してきたゲーミングノートPCと大差ない印象があるが、水冷ボックスを組み合わせることで、15.6インチサイズのノートでは考えられないゲーミング環境ができあがる。
単純なゲームのフレームレートや処理速度はもちろんだが、それ以上にファンの“音圧”が下がることで、ストレスが軽減されるのだ。ファンノイズが大きければヘッドホンをすれば良いという意見もあるが、この暑い中頭をずっと押さえつけられるフィーリングが嫌な人もいるだろう。そういう人には最高の選択となるはずだ。
しかしG-Tune H5-LCの水冷ボックスはまだ荒削りな部分も残されている。冷却水の残量を時々チェックする必要があるし、着脱時に手を抜くと水が漏れて何かとショートする可能性もある。水冷ユニットとホースの接続も、誰でも100%確実にできるとはいえない。この辺をキッチリとケアできる注意力のある人に使って頂きたい製品だ。
だがこれをマニアのための製品にして欲しくはない。今後もっとこの水冷ボックスをブラッシュアップし、誰でも気楽に使える高性能化オプションとして育ててくれることを期待している。
※ここで紹介した各パーツは、今回試用した機種のものです。出荷時にメーカー、型番などが変わる可能性もあります。ご了承ください。
標準スペック
メーカー | マウスコンピューター |
---|---|
型番 | G-Tune H5-LC |
ディスプレイ | 15.6型WQXGAノングレア/Dolby Vision対応(2,560×1,440) |
CPU | Intel Core i9-12900H |
メモリ | 32GB DDR5-4800 SO-DIMM |
M.2 SSD | 1TB(NVMe) |
チップセット | - |
光学ドライブ | - |
グラフィックス | GeForce RTX 3070 Ti Laptop GPU |
OS | Windows 11 Home 64ビット |
LAN | 2.5GBASE-T/1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T対応(RJ-45)LAN、 Intel Wi-Fi 6 AX201(IEEE802.11ax/ac/a/b/g/n)+ Bluetooth 5モジュール内蔵無線LAN |
インタフェース | Thunderbolt 4(背面Type-C×1)、USB 3.1(左側面Type-A×1)、 USB 3.0×2(右側面Type-A×2) |
サイズ | W360.2×D243.5×H28mm |
重量 | 約2.27kg |
バッテリー 駆動時間 |
約7.5時間 |
価格 | 369,800円(税込)~ |
価格・構成については、2022/9/13(記事作成日)現在の情報です。最新情報についてはマウスコンピューターのサイトにてご確認ください。
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