帰り道に泣いたことも

――新しい作品はどうやって出会うことが多いですか?

一番多いのはネットサーフィンをしているときに出てくる広告ですね。あとはまとめサイトをよく読むので、そこで取り上げられていると気になりますね。基本的にずっと漫画に飢えているので、スタッフさんとか役者仲間に「いま面白い漫画ありますか?」とずっと聞いています。


――ほんとにジャンル問わず読んでいますよね。

なんでも読みますね。アニメも好きなんですけど、アニメって30分時間を作らないと観れないじゃないですか。仕事から帰ってきて、30分作れないこともないんですけど、ほかのこともしてしまうし。でも、漫画ってどこでも読めるんですよ。


――本で読みます?

雑誌もコミックスもほとんど電子書籍ですね。声優の仕事って移動が多いんです。1回1~2時間の仕事が日に3~4本あったりする。現場も違うので、とにかく移動が多くて、その時間がもったいないので、ずっと電子書籍で読んでいますね。


――いつごろから電子書籍を?

ここ3~4年くらいですね。なかなか本屋に置いていない作品があって、調べたら電子書籍にあった、というのがきっかけかな。電子書籍でありがたいのが、気になったらすぐ買えることです。人と話してて「こういう漫画が面白いよ」って言われたら、その話の途中でポチッと買ってしまう。あと、僕は年間で数百冊は買うので、家にコミックスや雑誌を置いておくと大変なことになるじゃないですか。


――場所を取らないってのは大きいですよね。もう紙では読まない?

はい。この間、楽屋に『週刊少年マガジン』が置いてあって、つい出てしまったことばが「うわー懐かしい」ですよ。紙媒体が逆に新鮮でした。


――その紙感が好きで電子書籍に移行できない漫画好きも多いんですよね。

僕は、漫画は情報だと思っているので、あまり紙に対してノスタルジックな気持ちになることがないんですよ。読んでいてもキャラクターの名前とかをあまり覚えずに、流れるようにストーリーを楽しんでしまうので。


――漫画を読むときは移動時間中が多いとのことですけど、家の中でも読みますよね。

もちろん! ベッドで横になりながら読んでいます。あとは風呂ですね。電池が切れるまで読んでいます。


――前、羽多野渉さんに聞いたときは、書斎で読むと言っていました。

書斎!?(笑)。自宅に書斎があるんですか!?


――ほとんど漫画だけが並んでいる部屋があるらしいです。増田さんは電子書籍派だから部屋に漫画はなさそうですね。

僕は漫画に対しての愛はないんですよ。純粋に漫画が好きなだけなんです。なので、あまりコミックスで残しておきたいとは思わないんですよ。でも、『ライジングインパクト』のように、愛着がありすぎて、紙媒体で残しておきたい作品もありますね。


――漫画関連で心に残っているできごとはありますか?

漫画とリアルがシンクロして泣いたことがあります。


――なんの漫画ですか?

『グラゼニ』です。試合よりもお金をメインにしたプロ野球漫画なんですけど、プロ野球選手ってバッターならたった一打、ピッチャーならたった一球に自分の人生がかかっているといったことを描いていくんです。僕が読んだのは声優をはじめて1~2年のときだったので、アフレコ現場で何度やってもうまくできなくて、どうやったら認められるんだろうって考えていた時期だったんです。


■増田俊樹の"心に響いた"作品その2

◆『グラゼニ』

『グラゼニ』(C)森高夕次・アダチケイジ/講談社

"グラゼニ=グラウンドには銭が埋まっている" - 華々しいイメージのあるプロ野球界だが、その実情は年俸によって格付けされる超格差社会だった。主人公・凡田夏之介は中継ぎ投手としてプロ入りから8年目。左腕でのサイドスローという武器と、一軍選手の年俸を当てられる能力を使い、厳しい世界を生き抜いていく。

――ほんとに駆け出しのころですね。

ある日、「今日リテイクもらって2~3回くらいで出来なかったら俺はもうダメだ」って思いながら現場に挑んだんですけど、結局たくさんダメ出しをもらってしまい、『グラゼニ』のたった1回で今後の人生が決まる、といったことを思い出しながら泣きながら帰りました。


  • 『グラゼニ』(C)森高夕次・アダチケイジ/講談社

――増田さんでもそんな時期があったんですね……。しかし、かなり感情移入していますね。

それだけ漫画って僕の人生に影響を与えているんだなと思いました。



多数のジャンプ作品に出演

◆『ハイキュー!!』

『ハイキュー!!』(C)古舘春一/集英社

烏野高校1年・日向翔陽は、小学5年生のときに偶然見た「春の高校バレー」で、烏野高校のエースである「小さな巨人」に憧れバレーボールを始める。翔陽は小柄ながら、生まれ持った運動神経やジャンプ力といった武器を持っていたが、中学バレー部には自分以外の部員がいなかった。そんな逆風にも負けず、中学3年のときに、やっとのおもいでメンバーを集めた公式戦に挑むも、「コート上の王様」と呼ばれる影山飛雄に惨敗を喫する。翔陽は影山にリベンジを誓い、憧れの烏野高校に入学、意気揚々とバレー部がある体育館に向かうと、そこにはなんと影山の姿が……。

――次は『ハイキュー』ですね。増田さんが演じる縁下力は、主人公たちが通う烏野高校の2年生。

役が決まった当初は、2年生のなかではセリフが多い方という印象のキャラクターでしたね。ほかの2年生よりもしっかりと精神的なものをもっている感じ。でもやっぱり才能がないからレギュラーにはなれない。埋もれてしまうポジションなのかなと思っていました。


  • 『ハイキュー!!』(C)古舘春一/集英社

――一度、バレーボールから逃げ出してしまったという過去もあり、連載が進んでいくほど味が出ていったキャラクターですね。

そうなんですよ。『僕のヒーローアカデミア』の切島のように過去編があり、その後試合でも見せ場を作ってもらいました。


  • 『ハイキュー!!』(C)古舘春一/集英社

――演じていて記憶に残っているエピソードなどはありますか?

菅原孝支役の入野自由さんとは『遊☆戯☆王ZEXAL』のころから一緒だったのでいろいろ教えてもらいました。あとは、縁下のお当番回のときですね。アフレコ現場では毎回端っこに座っているんですけど、真ん中の方に座っていいよって言われたんですよ。普段、真ん中に座るのは主役級を演じている役者さんたちなので、それはもう緊張しましたね。縁下って、もともとはそんなに目立つキャラクターではなかったので、こんなことがあるのか……って。僕が演じる『ジャンプ』系のキャラクターってそういうパターンが多いですね。


――『ジャンプ』だと『黒子のバスケ』の葉山小太郎役もありますね。

◆『黒子のバスケ』

『黒子のバスケ』(C)藤巻忠俊/集英社

全中3連覇を誇る強豪校の帝光中学校バスケットボール部。その中でも、10年に1人の天才が5人同時にいた時期は「キセキの世代」と呼ばれ、無敗を誇っていた。だが、そんな「キセキの世代」から一目置かれる「幻の6人目(シックスマン)」と呼ばれる選手がいた。それが本作の主人公・黒子テツヤだ。平均以下の運動能力だが、その影の薄さを武器に相手に気付かれないようにパスを回すことができる。誠凛高校に入学した黒子は、光のプレイスタイルを持つ火神大我と出会い、ともに「キセキの世代」を倒し、日本一になることを約束する。

やっぱりどこか薄いですね(笑)。どうしてもレオ姉(実渕玲央)たちのキャラクターが立ちすぎていて、「あー、いたな」って思い出すような。実際のキャラクターとしては、カラッとした性格の中に蛇のような執着じみた男ですね。


  • 『黒子のバスケ』(C)藤巻忠俊/集英社

――葉山は無冠の五将のひとりで、実力はあるけどキセキの世代と比べると少しかすんでしまうようなキャラクターでした。

自分が頂点ではないという、劣等感が混じったような薄暗いニュアンスが入っているキャラクターなんですけど、その分芝居をするのが楽しかったですね。


――羽多野渉さんが演じているレオ姉との掛け合いも。

多かったですね。強烈な個性があって、一発その濃さを出せばオッケーというキャラクターと、ツッコミなどほかの人がいてはじめて成り立つキャラクターがいるとすれば、レオ姉は前者、縁下は後者じゃないですか。なので、レオ姉がいるだけで芝居の流れが変わりましたね。


  • 『黒子のバスケ』(C)藤巻忠俊/集英社

――ここまで話を聞いてきて、やっぱり『ジャンプ』に縁がありますね。それも部活ものが多い。部活じゃないけど『ワンパンマン』のチャランコ役とかも。

そうなんです。僕がデビューしたのも『テニスの王子様』のミュージカル(幸村精市役)でしたしね。ありがたいことです。



原作をすべて読まないで芝居を

――たとえば演じていく中で、自分と監督で原作の解釈が違った場合はどうしますか?

まずどっちが正しいか考えますね。そこに至るまでのカットでちゃんとつながりがあればアニメの方を優先します。やっぱり原作があっても、それをTVアニメで表現するのは監督じゃないですか。監督が原作を読んでどう表現したいかなんですよ、でも、演じていく上でどうしても違和感があれば監督や音響監督に、「原作ではこういう表情をしていた」とか「原作ではこういう言い回しだった」と伝えますね。そこでセリフが変わったり、キャラクターの表情が原作に近くなったりということもありますね。


――演技をする上では、全巻読んで先の展開を把握しておいた方がよいものなんでしょうか。

作品にもよりますけど、全部は読みませんね。その日の収録は何話までかを確認して、そこまでにしておくとか。


――それは演技が変わってしまうから?

僕はそう信じています。本当はどういう状況にあっても芝居はしなくてはいけないんですけど、展開を知っていることによって、脳の奥の方で「どうせ俺は死ぬんだろう」とか「こいつに勝つんだよな」とか、考えてしまうかもしれない。それよりも、「こいつに俺は勝てるのかな。勝ちたい!」と思って芝居をしたほうが、良いものができる気がするんです。気になって読んでしまうときもありますけどね(笑)。



  • 最後に増田さんには実際に「めちゃコミック」を触ってもらいました。
    「『めちゃコミック』はほかの電子書籍サイトとはちょっと違っていて、1コマずつ画面に表示されるんですよ」
    「うおー、大変ですね。コマごとに改めて作らないといけないんですよね」

ご紹介した作品はすべて「めちゃコミック(めちゃコミ)」で配信中。増田俊樹さんの漫画愛を振り返りながら読んでみてはいかがだろうか。

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