D'z IMAGEのデータベースを医療向けのAIの進化に活用
――学習教材としては「繰り返し見られる」のがとても重要になるのですね。もう1つの症例のデータベースの部分についてもお願いします。
山﨑准教授: D'z IMAGEは症例データが豊富だと指摘しましたが、これは、AI(人工知能)の学習用のデータベースとしても大変注目しています。
今回の学会のテーマとも関連しますが、将来の医療の現場では、進歩したAIが医療の自動診断補助を行うだろうというのが共通認識になっています。そして、AIがより効率よく学習して、より正確性の高い診断補助を行うためには、膨大な量の優良な症例データが必要になります。
ダーモスコピーで撮影する画像は、比較的個人情報が少ないので数を集めやすいのが利点。また、疾患部位をLEDなどで照らして、できるだけ均一な条件下で撮影するので、AIの学習用の症例画像としてもとても優良なのです。
そもそも医者は、皮膚科であるかどうかに関わらず、まずは患者の皮膚を見ます。患者自身、皮膚の異常には他の臓器の異常よりも気が付きやすい側面があります。このため、AIの研究において皮膚科から取り掛かるのは理にかなっています。
皮膚科におけるダーモスコピー活用は、医療におけるAIの活用の一番の近道であり、D'z IMAGEのデータベースはそこでも活躍できる。この活躍を後押しするためにも、今回の総会でセミナーの1つに取り上げ、もっと周知したいと考えたのです。
日本の医療におけるAI活用の将来像
――自動診断の補助が可能になると聞くと、一気に未来の話らしくなってきますが、まだハードルは多いかと思います。どのようなものがありますか?
山﨑准教授: 「自動診断」ではなく、「自動診断補助」と言っていることからもわかるとおり、最終的な診断は未だまだ医師の目が必要です。まずは医師の作業の効率化や、見落としの低減などで役立つツールを目指すことになるでしょう。
また、症例データベースを作るにしても、集めやすい症例と集めづらい症例があります。例えば、ダーモスコピーは腫瘍系の診療で大いに力を発揮するので、D'z IMAGEもいまは腫瘍系の症例が中心になっていますが、皮膚の異常は腫瘍だけではありません。かぶれや、水ぶくれ、虫刺され、水虫、火傷、擦過傷、蕁麻疹など多岐に渡り、ダーモスコピーはこれらにも利用できます。
ただ、ダーモスコピーは局所的な観察は得意ですが、全身に発疹ができたときなどは一部だけ診ることはあまり重要ではないこともありますし、写真に残すときも面積を広げないと何が何だか分からないことになりかねません。
――ダーモスコピーがあまり得意としない領域がそのままハードルになるのですね。
山﨑准教授: さらに、AIで自動学習させようとするとノイズの問題もあります。皮膚は全身を覆う人体最大の臓器ですが、頭の皮膚と身体の皮膚、手足の皮膚など、どれも特徴が異なるため、部位と紐付かないと診断しづらいことも多いのです。
例えば顔の皮膚は毛細血管が多く、すぐに赤くなるし、脂腺が多いのでニキビなどもできやすい。病患部の近くにニキビやニキビ跡があれば、それはAIにとってはノイズです。手のひらや足の裏であれば、指紋もノイズになります。
こうしたノイズの混じった画像を、学習に支障のないように補正する技術も求められるのです。このあたり、国内のカメラ技術を持つメーカーにとっては腕の発揮しどころであり、期待している部分です。
――日本の技術で医療技術が発達すれば、医師は仕事がしやすくなり、患者も治療が受けやすくなりますね。
山﨑准教授: 最初のゴールは患者さんのためになることです。単純にデータベースにして保管・参照するだけではなく、画像と診療情報や予後情報も組み合わせて活用することで、診療後の予測まで持っていこうというのが、日本の医学界が描くAI活用の道です。
患者さんの病患部が診療後にどう変化していくか、より正確に予測できれば、治療もしやすくなりますからね。
とはいえ、人工知能の深層学習は未だまだ分からないところが多くて、それこそAIが正しい答えを導き出した場合も、どうやって正解にたどり着いたか、分からないケースも少なくないそうです。
そうしたものを解析していくうえで、いずれは優秀な皮膚科医が診療のときにどこをどう見ているのかも調査して、機械学習の参考にすることになるでしょう。
――そうやって問題をクリアしていくことで、やがては夢物語じゃなくなるんですね。
山﨑准教授: 一番大切なのは本当に正しい診断が付いたデータベースをいかに作るか、集めるかという部分です。その点、ダーモスコピーを通して、質の高い皮膚病理の症例画像が豊富に集められるD'z IMAGEには、できることが未だまだたくさんあると考えています。今後の発展に期待しています。
――本日はありがとうございました。
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