「スター・トレック」など、未来世界を描いたSF映画には、怪我や病気をあっという間に自動で治療する機械がたびたび登場する。どのくらい未来なら、そのような機械が実用化されるのかは分からない。でも、医学の世界はそんな未来に向かって、一歩ずつ歩み続けている。

そんな印象を受けたのが、6月2日から4日にかけ、仙台国際センターで開催された第116回 日本皮膚科学会総会でのこと。総会のテーマは「Neo-Dermatologyの時代を生き抜く」。Dermatologyが皮膚科(皮膚科学)なので、Neo-Dermatologyは近未来を見据えた皮膚科学となり、テーマは“皮膚科の将来に備えよう”といったニュアンスになる。

今回の総会では、ダーモスコピー(dermoscopy)の学習にまつわるセミナーも幾つか組み込まれ、カシオ計算機の運営するクラウドを活用した無料の学習サービス「D'z IMAGE(旧CeMDS)」も紹介された。実はこのダーモスコピーも、近未来の医療を展望するうえで注目したい検査方法のひとつなのだ。

ダーモスコピーは、ここ10年ほどの間に活用する医師の増えてきた皮膚科の新しい検査方法。ダーモスコープ(dermoscope)と呼ばれる特殊な拡大鏡で皮膚の表面を観察し、皮膚がんの有無などを判断する検査で、健康なホクロと区別の難しいメラノーマなどの危険ながんも見つけやすくなる。

本稿では、総会でD'z IMAGEを取り上げた意義について、総会の事務局長である東北大学の山﨑研志先生に話を伺った。

東北大学大学院医学系研究科 皮膚科学講座 准教授/東北大学病院 皮膚科 副科長 山﨑研志 氏

D'z IMAGEを紹介した「ダーモスコピーにおける,学習用サービスの意義と活用法」のセミナーの様子。会場を埋め尽くす大変多くの受講者が詰めかけた

ダーモスコピー教材として優れるD'z IMAGE

――早速ですが、今回、皮膚科学会総会でD'z IMAGEがセミナーのテーマの1つになった背景や意義について教えてください。

山﨑准教授: ダーモスコピーの発展に関しては、実は日本人がとても貢献しています。それは日本の皮膚科医である私達が情報共有し合って普及活動を続けてきたということもありますが、カシオさんのように技術的な面からサポートしてくれる企業があることも、とても大きな要因になっています。

私がD'z IMAGEに着目している理由は、大きく2つあります。1つは学習教材として優れていること。もう1つは症例のデータベースとしても優れていることです。少し長くなりますが、1つずつ説明しますね。

――はい。では、まずは学習教材としての部分からお願いします。

山﨑准教授: D'z IMAGEは、インターネットにつながる場所であればPCでもタブレットでも利用でき、メモやマーカーがクラウドに残るのでどこでも同じ環境で勉強できます。画面上で症例と所見が見られ、解説を読むことで繰り返し頭に叩き込めるのです。

この繰り返しという部分が重要で、皮膚科医がより正確な診断を下すには、症例をたくさん見て慣れるしかありません。ところが、皮膚がんの中でも悪性腫瘍の代表格であるメラノーマは、日本では10万人に1.1人の割合なのでそれほど多くありません。一般の開業医にとっては実物を見る機会があまりないのです。

医学書の写真などで見ることはあっても、実際の患者として目の前で診察する機会は、医師によっては一生に一度あるかどうかでしょう。それに目の前の患者さんに対して、何度も何度も、繰り返し見て確認というのはなかなかできないので、その場の判断が間違っていたら、もうその場で終わりになりがちです。

D'z IMAGEには、症例データとして50疾患以上、症例画像が1,000例備わっています。メラノーマだけでも100例以上あって、それらが繰り返し見られるので、自主学習の反復練習に適していると言えます。

D'z IMAGEのトップページ。ログイン前の画面

D'z IMAGEでは症例データベースで豊富な症例画像が見られる