医療現場で注目されるクラウド型学習システム
がんは痛い病気。そんなイメージはないだろうか。実は、がんは初期症状のうちは痛くも痒くもない。病気が進行するまで見過ごす人が多いのもそのためだ。そして、がんは発見さえ早ければ高い確率で治る。つまり、痛くも痒くもないうちにいかに気づいて対処するかが、がんを克服するうえで非常に重要な要件なのだ。
身体の内部にがんがあるかどうか調べるには、採血、レントゲン、CT、MRI、超音波、場合によっては患部を切除して病理検査を行うなど、さまざまな方法がある。他方で、身体の表面にできる皮膚がんを調べる際に、2006年に保険適用となった新しい検査手法「ダーモスコピー」(dermoscopy)が、急速に普及。皮膚がんの早期発見に一役買っている。
近年、医師向けの画期的なダーモスコピー学習サービスとして、カシオ計算機のクラウドサービス「CeMDS」(CASIO e-Medical Data Support)が医療現場で注目されている。ダーモスコピー検査自体はシンプルなものだが、検査結果を解釈するにはスキルが必要だ。早く正確な診断を下すには、医師がそれなりの経験を積む必要があり、効率の良い学習こそが医療現場で求められている。このニーズに応えるのがCeMDSだ。
今回は、CeMDSに症例データと所見を提供している、信州大学医学部皮膚科学教室の古賀弘志助教と皆川茜医員に、皮膚科診療現場の課題やダーモスコピー検査の普及に向けた取り組み、CeMDSへの期待などを語ってもらった。
皮膚病の新しい検査手法「ダーモスコピー」
―― ダーモスコピー検査で、皮膚がんはどのくらい発見しやすくなるのでしょうか。
古賀氏「肉眼では見づらいところを判別しやすくなるので、発見の手助けになるのは確実です。ただ、一口に皮膚がんといっても、いろいろ種類がありますし、診断する医師のスキルにもよるので、『どれくらい』というのは一概にはいえません」
皆川氏「先に皮膚がんについて補足しておきましょう。
皮膚がんにもいろいろな種類があります。その中でもっとも気を付けたいのは『メラノーマ(悪性黒色腫)』です。ホクロに似た姿で成長することから『ホクロのがん』とも呼ばれています。メラノーマは皮膚以外の他臓器に転移しやすく、そのため死亡率も高い、とても怖いがんです。日本人の罹病率は10万人に1.1人くらいで、それほど多いがんではありません。
日本人でもっとも多い皮膚がんは、『基底細胞がん』です。転移の危険性が低いことから、小さいうちに見つけて手術で切り取ることができれば治癒できます。
基底細胞がんとメラノーマの中間くらいの危険性といわれている『有棘(ゆうきょく)細胞がん』もあります。これは日光の影響でできやすいとされるがんです」
メラノーマ(悪性黒色腫)は、発症数は少ないが転移の危険性の高い怖いがん |
転移の危険性が少ない基底細胞がん。皮膚がんの中ではもっとも症例が多い |
日光の影響でできやすく、危険度がやや高めの有棘細胞がん |
※いずれもCeMDSの画面 |
―― 日本人の皮膚がん発症傾向は独特なんでしょうか。
皆川氏「例えばメラノーマは白人のほうが罹病率が高いというデータがあるのですが、日本人でも色白の人はなりやすいといわれています。日本人の場合は、統計的に足の裏にできやすいと知られていますが、これははっきりした理由は分かっていません。屋内など裸足で過ごす時間が長いせいではないかとする説もあります」
古賀氏「いま説明した基底細胞がん、メラノーマ、有棘細胞がんの3つが、いわば三大皮膚がんです。これらの多くはホクロのような肌の色素変色を伴います。たまに虫刺されのような赤い腫れで、痛くも痒くもないというデキモノががんのこともありますが、ほとんどは『ホクロみたいなもの』です」
―― つまり、「ホクロ」なのか、「ホクロみたいなもの」なのかを見分けるのですね。
古賀氏「そうです。ダーモスコピー検査では、『ダーモスコープ(dermoscope)』と呼ばれる特殊なルーペを使い、患部(病変)を10倍以上に拡大して診察します。
ダーモスコープは原理的には拡大して見るだけの検査器具なので、患者さんが痛みを覚えたり、副作用が出たりすることは一切ありません。健康保険も適用されるので、1回の診療あたり数百円の負担で済み、医師も患者も身構えることなく診察できます。
このダーモスコープで、疑わしいホクロを拡大して調べるわけです。ダーモスコープは患部を明るく照らせるので、裸眼では判別しづらい細部も詳しく確認でき、ただのホクロなのか、ホクロに似たがんなのかが判別しやすくなります」