東京の店頭に並ぶdynabookを見て
現在の開発体制としては、東京の設計チームがとんがった差異化機種を主軸にした拠点として1チームを擁し、TIHは3チームを擁する。TIHの3チーム目は、派生機種を担う体制となっている。そして、メカ、ソフト、エレキ、システム (DFM - 製造性を向上させた設計に関する全体のとりまとめ) を一気通貫で引き受ける。
東京で商品開発プランが立ち上がると、TIHの担当メンバーは日本におもむく。そこでは営業要求、企画要求を検討するミーティングが行われる。この段階ですでに商品企画とはフェイス・ツー・フェイスのプロセスだ。TIHの開発現場で事前検討した結果と営業要求、企画要求を打ち合わせ、それをTIHに持ち帰ってさらに具体的な詳細設計作業に入る。
TIHの設計センター長、辻浩之氏はいう。
「昨年の夏頃から開発量が増えてきました。もちろんBtoC製品を作るようになったからです。かなり成果が出せていると感じています。匠の技術が育っていますね。従業員のモチベーションも高まっています。それによって製品のクオリティが以前よりも向上しています」
「たとえば、基板上のコネクタにフレキシブル・フラット・ケーブル (FFC) を接続するのではなく、基板上の接続コネクタを削減し、基板にFFCを直付け (ダイレクトボンディング) しています。他社では1mmピッチで実施していますが、東芝の場合は、もっとピッチ間隔が狭くかつ難易度が高い、0.5mmピッチのダイレクトポンディングを行っています。設計・製造メンバーが連携して、コネクタ部品削減によるコスト低減と品質向上もあわせて実現しています。これは、他社で実現できてないことを自分たちでやってみたいという熱い気持ち、思いがなければできるものではありません。そのくらい意識が高いということです」
従業員にしても、BtoC (一般コンシューマー向け) の生産を担当するようになったことで、美しく、軽やかなパソコンを作りたいというモチベーションがわいてきたという。ミーティングのために東京におもむいた中国人従業員が量販店に並ぶdynabookを見て、自分が関わった製品がそこにあることに誇りを感じるようになったともいう。BtoB (企業向け) 製品だけを担っていた頃に、それはありえなかったのだ。
BtoC製品は外見の美しさが評価されることも多い。そのことは今後BtoBでも求められる要素であるという。つまり、BtoBでもBtoC的な作り方が必要とされる時代がやってこようとしている。薄さ軽さをめざし、機能的なものを作ってきたBtoBに対して、BtoC的要素をマージしたいいとこどりをできるのがTIH体制だと辻氏はいう。
新生「dynabook Tシリーズ」にみる「設計のこだわり」
これまでのODMにおける委託生産は、常に大量生産が前提だった。ところがTIHは少数多品種のBTOが基本だ。それならば今後は、TIHが作りたいモデルを提案し、本社と議論しながらぶつかり合う中で製品を作っていきたい、と欲も出てくる。
たとえば2016年秋モデルの「dynabook Tシリーズ」では、天板を成型する際に金型に転写フィルムを挟み込む「成型同時加飾転写工法(IMR)」を採用している。この薄く美しいデザインによって、15.6型の大画面を持ちながら、必要以上に存在感を主張しない。これからの家庭で求められるスタンダードPCは、企業で使われるスタンダードPCとは一線を画するものだ、という意思が込められているようだ。その息吹が新生Tシリーズには強く感じられる。
さて、本レポートの冒頭で、新生Tシリーズのキーボードについて、触って30秒で従来モデルとの違いを実感できると述べた。今回、製造の現場を訪れ、開発者の話を聞いたことで、それは筆者の単なる直感ではなく、根拠あっての品質改善であると確信した。
外から見えない部分では、キーボードプレートの板金に突起をつくって筐体との隙間を埋めている。これによって剛性感・打鍵感を高めている。キートップに印字されたフォントも視認性に配慮して選ばれたものだ。ほんの小さなことのように思えるかもしれないが、こうした設計段階における「こだわり」が製品全体のクオリティ向上につながっている。
今のユーザーを大事にすることが肝心だと辻氏。今のユーザーの言葉が次の製品を作るとも。そこでは商品開発のみならず、商品製造の現場の力が生きてくる。製品作りをテクニカルに引っ張っていく役割を果たす青梅工場と、ユーザー本位の製品作りを目指すTIH。その両輪が、これからのdynabookをよりよいPCへと昇華させていくにちがいない。
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