クレジットカードの利用範囲の拡大や電子マネーの普及、さらにはブランドデビットカードやブランドプリペイドカードといった新しいプロダクトの登場によって決済手段が多様化し、わが国のキャッシュレス化は一段と進んでいくものと思われます。また訪日外国人の増加は、クレジット業界にとって新たに生まれたビジネスチャンスであるとともに、地方創生や地域経済活性化の観点からも大きな機会となっています。

これからのわが国のキャッシュレス化の推進のために、どのように取り組んでいくのかを株式会社ジェーシービー代表取締役兼執行役員社長の浜川一郎氏にお話を伺いました。

株式会社ジェーシービー 代表取締役兼執行役員社長 / 一般社団法人日本クレジット協会 副会長 浜川一郎氏(左)、キャスター 村山千代氏(右)

拡大するマーケットへの対応と収益性の確保の重要性

村山千代氏(以下、村山氏):足元の日本経済は、円安・原油安などの影響もあり、また世界的な景気悪化等の影響が懸念されるところですが、クレジット業界を取り巻く経済環境・社会環境をどうご覧になりますか?

浜川一郎氏(以下、浜川氏):わが国の景気は、全体として緩やかな回復基調をたどっていると言われますが、足元、個人消費や企業収益が勢いを失っているほか、金融資本市場において、金利の低下や株価の変動といった先行きを見通しにくい要素もあります。海外においても、新興国や資源国での景気の下振れ、あるいは地政学的リスクの高まりといった懸念要素が存在します。クレジットカード決済の増加には個人消費の拡大が欠かせませんし、消費の拡大には将来に対する消費者の安心感が重要です。日本経済が内外の不確実性からできるだけ悪影響を受けずに、回復の道のりを着実に歩むことが期待されるところです。

社会環境について申し上げますと、一昨年12月に関係省庁の連名で「キャッシュレス化に向けた方策」が公表され、昨年はその実現に向け官民一体で具体的なアクションが開始されました。昨年3月には、わが国のセキュリティ強化に向けた「クレジット取引セキュリティ対策協議会」が発足しています。

クレジット業界に対する期待とクレジットカード会社が果たすべき社会的役割はさらに大きくなっており、安全・安心なカード社会の実現に向け、消費者利便性の向上と消費者保護の強化に実効的な取り組みを行っていく必要があると思います。

村山氏:政府の成長戦略としても、「日本再興戦略」の改定2014、改定2015において、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえた訪日外国人の増加を見据え、キャッシュレス決済の普及が打ち出されていますが、業界の現状についてどのようにお考えでしょうか?

浜川氏:キャッシュレス決済の状況について申し上げますと、昨年11月に金融広報中央委員会が公表した「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、買い物代金などの日常的な支払いにおいて、クレジットカードやデビットカード、電子マネー等の現金以外の決済が着実に広がっていることがわかります。2010年からの変化を見ると、少額から高額まで、どの金額帯においても現金払いの比率が低下するいわゆる現金離れが起こる一方で、カードの利用率が上昇しています。

わが国のクレジットカードショッピング信用供与額も着実に増加を続け、2014年には前年比10.7%増の46兆円となりました。ただ、民間最終消費に占める比率は16%程度にとどまっており、キャッシュレス化の余地はまだ残されていると思います。消費者の意識の変化、さらにはデビットカードやプリペイドカードといった新しいプロダクトの普及によって、わが国のキャッシュレス化は一段と進んでいくものと思います。

他方、拡大するマーケットであるがゆえに競争も厳しく、業界の全体的な収益性は低下を続けていると思います。キャッシュレス化を進めていく一方で、収益性の確保は今後ますます重要な課題になってくると思います。

訪日外国人の増加は、新たに生まれたビジネスチャンス

村山氏:昨年は「爆買い」が流行語大賞に選ばれるなど、インバウンド消費が大きな話題となった一年でした。また、スマートフォン決済等、新たなプレーヤーやFinTechと呼ばれる新たな技術を活用したビジネスの登場の動きも活発化していますが、クレジット業界の今後の展望についてお聞かせください。

浜川氏:昨年一年間、日本を訪れた外国人は1,973万人、前の年に比べ47%の増加でした。一方、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、こうした訪日外国人による旅行消費額は3兆4,771億円、前年比71%の増加で、訪日客の数以上にインバウンド消費の金額が大きく伸びていることがわかります。世界的な景気悪化による影響等が懸念されるところですが、伸び率が鈍化することはあっても、2020年に向けて、引き続き多くの外国人が日本を訪れ、消費活動を行うことは間違いないと思います。

増加する訪日客に不便な思いをさせないために、地域や観光地におけるカード決済環境の整備を急がなければなりませんが、訪日外国人の増加は、クレジット業界にとって新たに生まれたビジネスチャンスであるとともに、地方創生や地域経済活性化の観点からも大きな機会であると思います。

また、今おっしゃったいわゆるFinTechも、業界の今後の展望を考える上で重要なテーマです。現在、情報通信技術の発達を背景に、金融に関する様々な分野でイノベーションが起こりつつありますが、貸出や資産管理、資金調達、保険などと並んで、決済はその重要な分野だと考えられています。NFCやトークナイゼーション、ビッグデータやブロックチェーン、生体認証等のテクノロジーの発達がどのような影響をもたらすのか、脅威と機会の両面から注視していかなければならないと思います。