100円ショップで電卓が変える時代に、約3万円(筆者調べ)という価格を引っ提げて登場したカシオの「S100」。その目から鱗なコンセプトと、電卓業界初のV字ギアリンク構造を採用したキーボードについて聞いた前編に引き続き、商品企画の大平氏、デザイナーの宇都宮氏にお話を伺う。

カシオのフラッグシップ電卓「S100」

商品企画を担当した大平啓喜氏

デザイナーの宇都宮亮氏

初めて語られるエピソード

S100は、液晶ディスプレイにも並々ならぬこだわりがあるという。

大平氏「見やすさを徹底的に追求しています。まず、液晶を保護するアクリルのパネル。ここには表裏両面に反射防止コーティングを施しています。通常のアクリルパネルでは、表と裏で各4%、計8%の光が反射としてロスされます。これが見にくさにつながる。その点、S100のパネルはこれを表と裏、各0.5%、計1%程度に抑えられるのです。だから、オフィスの蛍光灯の光などをほぼ気にする必要がありません」

両面反射防止コートを施したアクリルパネル(パーツ状態)。まるで枠だけのような視認性

その奥にセットされる液晶パネルにも、高級な「FSTN」液晶を採用。どんなに角度を変えて目を凝らして見ても、地に配線の影が見えにくい。一般的な電卓の液晶をよく見ると、数字の「7セグメント」を表示する部分がムラのように見えてしまうものなのだ。これは確かに使用時のストレスがまったく違う。

大平氏「一般的な電卓の液晶とは視野角がまったく違います。普通の液晶は視野角が狭いので、ちょっと斜めから見ると、数字の部分ごとの濃さにムラができるんです。全体的なコントラストも低下します。ところが、FSTNの液晶の視野角は全方位なので、どこから見ても見やすいのです」

全方位の視野角を持つFSTN液晶のおかげで、斜めからでもこの見やすさ

液晶の文字色には紺色を採用している。普通に考えると、白地に黒文字が一番見やすい気もするが。

宇都宮氏「ところが、液晶の黒って、実は"透けた黒"なんです。それに、地も技術的に真っ白にはできない。そこで、液晶の色を紺にしました。これは万年筆の紺インクのイメージ。今までの電卓とは違うんだ、という意志を使う人の感性に訴えたかったんです」

液晶には、特にこだわったとのこと。大平氏が続ける。

大平氏「液晶文字のセグメントの切れ目に隙間がありますよね。実はこの隙間もギリギリまで詰めています。本当はひとつの文字はセグメントが全部つながって見えた方がキレイなんですよ。なかなかそうは行かないのですが。

社内に液晶専門のチームがありまして、そこと何度もやりとりをして、ここまで切れ目を詰めたんです。これもかなり苦労していまして……」

【左】S100の液晶ディスプレイ。文字のセグメント間の切れ目に注目。右下などは、ほとんど隙間がない。光の加減で紫に写っている部分があるが、実際の見た目はフラットな紺色。【右】本格実務電卓の液晶ディスプレイ。十分見やすいが、S100を見たあとだとセグメントの切れ目が気になる

なお、この文字の切れ目を苦労して詰めた話は、カシオの広報スタッフさえも初耳だったという。「えぇ、今初めて話しました(笑)」(大平氏)。

宇都宮氏「確かに、そんなこともやりましたね。本当に考え得る色々なことをやったので、私も全部は覚えていないですね」