2015年10月23日、ベルサール神田(東京都千代田区)で、アプレッソ主催のセミナー「今こそ攻めのIT投資を! 最新IT事例セミナー ~IoT、クラウド活用で新たなビジネスをつかめ!~」が開催された。このイベントには、ユーザー企業やサービスベンダーが150人ほど集まり、IT構築例や活用術を興味深げに聴いていた。今回は、そのセミナーの様子をレポートする。
【基調講演】
この攻めのIT投資に転換し、ビッグデータ活用による新しいビジネスを創出
本セミナーのトップをかざる基調講演に登壇したのは、日本政策投資銀行 産業調査部 次長の清水誠氏。講演タイトルは「IoTを活用した新しいビジネス創出の可能性と課題」。日本政策投資銀行は政府100%出資の金融機関だ。融資や投資だけではなく、M&Aのアドバイザリーサービスも提供している。
「IoTで集めたビッグデータの活用は事業創出や競争優位の源泉になる」と講演の冒頭で、清水氏は力強く参加者に訴えかけた。それは、IoTでつながるデバイス数は2020年、250億個まで拡大するという調査があるからだ。
「たとえ今その波にさらされていない産業においても、いずれ必ず押し寄せるでしょう」と清水氏は断言する。しかし実態は、IoTやビッグデータを「活用している」と答えた企業はわずか6%。「検討している」という回答を含めても22%だった。これは、ここ2年の調査と比較してもほぼ変わらない数値。つまり、IoTやビッグデータは話題にはなっていても、実際に活用していると胸を張って答えられる企業は少ないということだ。
その一方で、IoTやビッグデータ活用による新市場やサービスは続々と登場している。例えば、米GEのインダストリアル・インターネット。同社が提供する航空機エンジンにセンサーを取り付け、稼働状況データを収集・分析すれば、航空機の点検保守作業の効率化および故障予防型のメンテナンスが実現する。この仕組みを構築したことで、同社の売り上げの4割を締めるサービスの強化を図ることができたという。
「さらに、同社に集まった23社にも及ぶ航空会社が持つフライトデータと組み合わせることで、離着陸時の飛行経路を最適化し、燃費を改善するサービスが提供できるようになった。このように、IoTやビッグデータを活用することで、他の追随を許さないビジネスモデルを生み出すことができる」と清水氏は力説する。
清水氏は、そのほかにもラスクル(印刷のeコマース会社)やフランスのBlaBlaCar(ライドシェア)などの、インターネットにつながっていない資産と潜在需要をIoTで結びつけるという新たなビジネスモデル事例を紹介した。中でも、「車のIoTは莫大なビジネスチャンスがある」と指摘する。そのほかにも、コンビニと食品メーカーが連携し、コーヒーに合う菓子を共同開発する事例や、身近なIoTとしてスマートホームやホームオートメーションなどの事例を紹介した。
これらの事例のように、IoTやビッグデータを活用して新しいビジネスを創出していくためには、「まだまだ課題が山積みしている」と清水氏はいう。そのために、まずは攻めの「IT投資への転換が急務」だと指摘。例えば、社内データの活用にとどまるのではなく、外部データと組み合わせるとどうなるかという発想が重要だ。しかし、これは情報システム部門だけでやれることではないため、ビジネスチームとコラボレーションすることが必要である。
さらに清水氏は、「トップダウンで行うこと。そしてそのようなチームワークを根付かせていくことが重要」と提言する。
もちろん、攻めのIT投資をするには、日本政策投資銀行をはじめとする金融が果たす役割も大きい。セッションの最後に、清水氏は「横断的な連携を促すつなぎ役として、お客さまの困りごとを聞き出しながら経営課題を明確化し、それを解決するための支援をしていきたい」と語った。
――基調講演の後は、サービスベンダーや製品ベンダーによるIT事例の紹介へと移った。次は、それぞれのセッションの概要やポイントについて紹介していこう。
【セッションA】
kintoneで業務担当者がシステムを開発、効果を出す時代に
変化が早く、働き方に左右されない時代にマッチしたシステム開発モデルが求められている。サイボウズ ビジネスマーケティング本部 kintoneプロダクトマネージャーの伊佐政隆氏は、「kintone」の魅力について事例を交えて解説した。kintoneは、プログラミング不要で、さまざまな業務システムをスピーディーに作成できるクラウドサービスだ。
例えば、Francfranc(フランフラン)というインテリア・雑貨店を全国展開しているバルスでは、発注残管理システムをkintoneで作成した。このとき、開発にかかった期間は、わずか2週間。このように、容易かつスピーディーに開発できることが評価され、現在、3,000社超の会社が導入している。
10月15日には、第1回目のユーザーイベント「kintone hive」が開催された。同イベントでグランプリを受賞した中島工業は、産業用空調や給排水など、水と空気にかかわる工場設備の設計、施工、メンテナンスなどを行っている創業92年目の会社だ。多くの従業員がお客様の現場に赴き、業務に従事している。同社では、クラウド型のkintoneを採用し、現在は75ものシステムを作成し活用している。従業員の多くは、ITにはあまり慣れていないが、このシステムは無理なく活用できているという。
「その秘密は、kintoneの特徴である柔軟性にある」と伊佐氏。「考える前に作ってみて、運用しながら状況にあわせてアップデートをかけていくことがコツ」だと話す。
つまり、システムのゴールを「完成」ではなく「活用効果」に置くのが重要なのだ。サイボウズではお客様の要望に応えるため、kintoneの機能強化にも積極的に取り組んでいる。リリースから4年で280もの機能がリリースされており、12月には新たにマルチカンパニー対応機能がリリースされる予定だ。今後もビジネスを取り巻く変化のスピードは加速していく。kintoneのようなファストシステムを活用し、業務の効率化を図っていくのが得策となるはずだ。
【セッションB】
マイクロソフトの機械学習エンジンAzure Machine Learningの利活用事例
IoTやビッグデータを活用すれば、多くの機器からデータを収集できるようになり、それらを抽出・分析することで新たな知見が生まれ、ビジネスにも有効利用できる。一般的に、ビッグデータから必要な結果を抽出するために、データサイエンティストなどがルールを適用し必要なデータだけを取り出してきた。ルールに適用されないデータは捨てられてきたが、この中にも知見が隠されている場合は少なくない。
そこで最近では、これまで捨てていたデータからも知見を発見するために、「機械学習」を適用しようという動きが活発化している。ネクストスケープでは、Microsoft Azureの機械学習エンジン「Azure Machine Learning」を使い、企業の課題に応えている。同社 経営戦略本部 エバンジェリストの上坂貴志氏は、その活用事例として、カルチャー事業を手がける「朝日カルチャーセンター」の事例を紹介した。「朝日カルチャーセンター」のサイトは、機械学習による講座の自動レコメンデーションを実装している。これによって、ユーザー情報を入力しなくても、これまでの閲覧者の行動履歴を機械学習で分析するだけで、関連講座が表示できるようになった。その結果、月額1,000円程度のコスト増で、1訪問当たりの講座閲覧数が10%も伸びたという。ビッグデータをさらに踏み込んで活用しようと考えている企業であれば、今後、機械学習は欠かせないテクノロジーとなるだろう。