2020年オリンピック・パラリンピック東京大会開催に向けて、昨年12月に政府から「キャッシュレス化に向けた方策」が公表となり、クレジット業界に大きな期待が寄せられています。業界あるいは協会としての抱負を協会副会長の三菱UFJ ニコス株式会社・代表取締役社長 井上治夫氏に伺いました。

消費生活に浸透するクレジットカード、キャッシュレス決済拡充の中心に

三菱UFJ ニコス株式会社 代表取締役社長/一般社団法人日本クレジット協会 副会長 井上治夫氏

野口香織氏(以下、野口氏):昨年4月の消費増税などの影響により、個人消費は伸び悩みの状況と言われておりますが、クレジット業界への影響をどのようにお考えでしょうか。

井上治夫氏(以下、井上氏):消費増税に加え、円安による輸入価格高騰などで内需産業が大きな打撃を受け、個人消費の回復は遅れておりますが、クレジットカード市場は消費増税以降も堅調に成長しております。

内閣府によると、昨年の増税影響により平成26年4月~ 9月の半年で個人消費が前年同期比で1兆円抑制されたとのことですが、当協会の集計では同期間のクレジットカード取扱高は約1.8兆円増加し、前年より約1割増のペースで成長しております。

クレジットカード市場のこうした成長の背景には、カード利用によるポイント獲得で、増税分を少しでも取り戻したいという消費者の倹約志向があるのではないでしょうか。

キャスター 野口香織氏

野口氏:現状のクレジット市場の位置付けと今後についてどのようにお考えでしょうか。

井上氏:クレジットカードの発行枚数は約2.7億枚と成熟傾向にある一方で、クレジットカードの取扱高はインターネット通販の著しい成長などで前述の通り成長を継続しております。既にカード選別の時代に入っているものの、クレジットカードが日常生活で必需の存在と認識され、今やひとつの「社会インフラ」になっているものと考えております。

また、ご承知の通り、日本におけるクレジットカード決済比率は、個人消費の未だ14%で2割にも達しておりません。この数字はアメリカや韓国といった諸外国に比べ大変低く、まだまだ成長の伸びしろが大きいと言えます。例えば、インターネット通販市場は平成25年度に11兆円を超え2桁成長が続いておりますが、その支払いの約6割がクレジットカードとの調査があり、今後もスマートフォン等の普及で同市場が拡大し、私たちのビジネスフィールドは益々広がっていくと期待されるものです。

また、昨今著しく成長している「電子マネー」にも注目しています。クレジットカードと電子マネーは決して競合関係ではなく、むしろ双方のシナジー効果で共に成長し、共用端末や共用カードの普及により、クレジットカードを中心としたキャッシュレス決済が拡充してゆくものと考えております。

2020年に向け「日本再興戦略」のもと利便性と安全・安心の取り組みを加速

野口氏:割賦販売法の見直しの議論が進められる一方、政府の「日本再興戦略」に基づく「キャッシュレス化に向けた方策」等においてクレジットカードが取り上げられるなど、クレジット業界を取り巻く環境が大きく変わってきていますが、どのようにお考えでしょうか。

井上氏:政府は昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略2014」において「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等の開催等を踏まえ、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上を図る」とし、12月には内閣官房及び関係省庁により具体策を取り纏めた「キャッシュレス化に向けた方策」が公表されました。

この「キャッシュレス化に向けた方策」では、経済振興(利用拡大)に係るテーマとして「訪日外国人における利便性向上等」「公的分野の効率性向上の観点からの電子決済の利用拡大」、安全・安心への取り組みに係るテーマとして「クレジットカード等を安全に利用できる環境整備」が取り上げられ、それぞれのテーマに対する具体的な対応策が示されております。

平成26年の訪日外国人旅行者数は1,341万人に至り、政府は「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」において、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催される2020年には2,000万人の高みを目指すとしており、また、平成26年の外国人消費は2兆円を超えるなど、今や観光・交通・流通などの産業を下支えする存在となっております。「キャッシュレス化に向けた方策」における訪日外国人の利便性向上策の一つに、地方商店街や観光地におけるクレジットカード利用環境の整備の必要性があります。その取り組みを着実に進めることが、訪日外国人の活発な消費のみならず、地域経済そのものを盛り上げ、「観光立国」「地方創生・地方活性化」実現の一助になるものと考えております。

政府は観光立国の推進、地方における商業・商店街振興とキャッシュレス決済の推進などを目的に、クレジットカード決済端末導入などへの交付金の措置を講じられており、今後、当業界としてもしっかりと対応してゆく必要があります。

また、当然のことながら、キャッシュレス化の進展には、クレジットカードの利便性向上への仕組みのみならず、消費者が安全・安心にクレジットカードをご利用いただける環境の整備が極めて重要です。

安全・安心への取り組みについては、昨年9月より審議が行われている産業構造審議会の割賦販売小委員会においても、割賦販売法の見直し審議の中で主な論点として取り上げられています。 

昨今の情報漏洩事案や昨年の不正使用被害額を踏まえ、クレジットカード番号等の保護対策のあり方、偽造カードや番号盗用によるなりすましへの対応など、当業界におけるセキュリティ対策について審議が進められております。

また、近年のインターネットの普及などで、主に海外のアクワイアラーなどを経由した悪質事業者による消費者トラブルが多く発生しており、悪質事業者の排除に向けた、効果的且つ効率的な対応策が求められております。

消費者がストレスなく、快適にクレジットカードを利用できるよう、「利便性向上」と「安全・安心」への対策を両輪で、しっかりと行っていくことが重要です。