薄くてスタイリッシュな外装とは裏腹な高堅牢性
初めて「ThinkPad X1」の実機を目にしたときの心境は、驚きというより当惑に近い。これまで抱き続けていたThinkPad像との隔たりがあまりに大きく、どうにもイメージが重ならない。まさかレノボほどの大企業が奇を衒ったわけではあるまいし、何か狙いがあるに違いないと思いながらも、その真意をはかりかねるばかり。だが、実機をじっくりと使っているうちに、この“新世代ThinkPad”の真価が見えてくる。
「ThinkPad X1」は、13.3型ワイド液晶のゼロスピンドル(光学ドライブ非搭載)のモバイルノートだ。Xシリーズとしては「X300/X301」に連なる新モデルとなるが、共通しているのは画面サイズだけで、旧モデルの面影はほとんどなく、後継というよりまったく別ラインの製品に見える。
まず目を引くのが、エッジを効かせたデザインとその薄さだ。最薄部は16.5mm、最厚部でも21.3mmというのは「ThinkPad史上最薄」だという。しかも、手前や両サイドを斜めに切り取ったような形状をしているため、薄さがさらに強調されて、実際の数値以上にスリムに見える。これまでのThinkPadといえば、無骨、実直、質実剛健、悪くいえば少々野暮ったい、といった言葉が連想されたが、この「ThinkPad X1」はスタイリッシュで垢抜けていて、見映えがする。
高さは16.5mm(最薄部)~21.3mm(最厚部)。同じ13.3型ワイドの旧モデル「ThinkPad X301」が18.6mm~23.4mmだったので、そこからさらに2mmほどスリム化されたことになる |
とはいえ、ボディのスリム化と引き替えに強度が低下してしまっては、ThinkPad一番の売りである堅牢性が損なわれる。そこで「ThinkPad X1」では、トップカバーやベースカバーにマグネシウム合金を用いた。また、トップカバーはわずかに丸みを帯びた形状になっていて、加圧にも強い。一見、薄くて心許ないようだが、触れてみると剛性が高く、トップカバーを強く押しても少したわむ程度で変形したりしない。ただし金属素材をふんだんに使っていることもあって、重量は約1.69kgと、ここ最近の13.3型ワイドノートとしてはやや重い部類となる。
液晶は「ゴリラガラス」。キーボードは6段配列に
トップカバーを開けると、液晶画面とベゼルの全面を覆う一枚板のガラスに気づく。それも表面に光沢まであるのがThinkPadらしくないが、このガラスも「ThinkPad X1」の強度を高めるのに一役買っている。これにはコーニング社の「ゴリラガラス」という特殊強化ガラス。最近ではスマートフォンや液晶テレビなどにも採用され、「傷が付きにくい」と好評だが、「ThinkPad X1」のガラスは傷が付きにくいどころか、ドライバーを突き立てても傷が残らないそうだ。また、この高硬度ガラスとマグネシウム合金のトップカバーを一体化した構造によって、液晶の開閉時にかかる曲げの力にも強い。トップカバーの角に指をかけて開けてもみたが、多少しなるくらいで、曲がることももちろんガラスが割れることもなかった。
液晶パネルは13.3型ワイドで、1,366×768ドット表示。最大輝度は350cd/平方メートルとかなり明るめで、発色も鮮やか。視野角は決して広い方ではないが、頭を上げ下げする程度で色相が変位するようなことはない |
また、液晶画面が明るく、色が鮮やかというあたりも、従来のThinkPadとは方向性がだいぶ違っている。これがAVノートやホームノートなら褒めるべきところだと思うが、ThinkPadの主用途はビジネスで、明るさや発色よりも、文字の視認性の高さ、目への負担感の軽さなどが重視されてきた。ただ、輝度は15段階で調整でき、最小輝度もかなり暗いところまで落とせるようになっているので、使用環境に応じて適宜調整すれば目への負担は抑えられる。
液晶まわりの変更以上に驚かされるのはキーボードで、ThinkPadの伝統ともいえる7段配列ではなく、6段配列のアイソレーションタイプに変わっている。歴年のThinkPad愛用者には、このことに心寂しい思いをする向きもあろう。だが「ThinkPad X1」を前にして冷静に考えてみれば、自分自身がこだわっていたのは7段配列ではなく、思考を遮ることなくスムーズに打鍵できるキーボードの打ちやすさだったことに気づく。それに、ThinkPadに対して特段の思い入れがない世代を思うと、7段配列の見た目は敷居の高さにつながっていた面もありそうだ。加減乗除さえできればいいところを、難解そうなボタンがたくさん付いた関数電卓を手渡されたら、ちょっと腰が引けてしまうような、そんな感覚に近いのではないか。
キーボードは大幅に変わったものの、トラックポイントとタッチパッドで構成される「ウルトラナビ」は堅持している。トラックポイントが従来のThinkPadよりもやや奥まっていたり、タッチパッドはクリックボタンと一体化された「クリックパッド」に変わっていたりなど多少の違いはあるが、利用シーンに応じて使い分けが利く2種類のポインティングデバイスはやはり完成度が高く、相変わらずの「マウスいらず」だ。