――ちなみに、役者として舞台に挑むのと声優として収録に臨むのとでは、どのような違いがありますか?

福圓「それぞれで違うところに緊張感があると思います。アニメの場合、監督さんの意思があり、絵で描かれたキャラクターによる芝居があって、その上で私たちの仕事があるじゃないですか。自分ひとりでキャラクターを作り上げるわけではないので、ちょっと預けているといった部分が私の中にはあったりもします。自分自身は、あくまでもキャラクターを作り上げていく中でのひとつの要素でしかない。でも、舞台の場合は生ですから、自分のパーソナルな部分を活かして芝居をしないと、どうしてもお客さんに届かないんですよ」

――役になりきりつつも、自分自身も出していかないといけないわけですね

福圓「そうですね。アニメーションの場合だと、私の人間性という部分がせいぜい20%ぐらいだとすると、舞台なら80%から90%ぐらい自分を出していかないと、どうしても作り物みたいになってしまう。そのあたりが全然違ってくると思います。あとは周りの方とのセッションから生まれてくるものも違ってきますね。もちろん舞台にも演出の方がいらっしゃるので、自分勝手に演技をするわけではないのですが、その場その場、その日その日の劇場の空気もお芝居にすごく作用してくるので、何が生まれるかわからない面白さと緊張感が舞台にはあると思います。逆にアニメの場合は直前に台本をいただいて、みんなであわせて稽古することもほとんどなく、スタジオに行って収録するという、いわば一発勝負的な緊張感があります」

――何が生まれるかわからないとおっしゃいましたが、舞台の場合は、公演によっての変化というものもありますよね

福圓「公演によってどうしても違いがでてきますし、その時に生まれるものによって印象に残るシーンが変わってくることもあると思いますが、出来るだけブレないように、どの公演を観ても伝わることが変わらないように、100%のラインだけは死守するようにしているつもりですし、これは私のポリシーでもあります。ただ、その100%のラインを守った上で、上積みとなる20、30の部分が変化してくることはよくあります。お客様の男女比などでも芝居は変わってくるんですよ」

――年齢層などでも変わってきますよね

福圓「そうですね。劇場の空気が変わると、それがどうしても舞台にも反映されるんですよ。お客様あってのお芝居です」

――そのあたりは、舞台で演じていながら肌で感じるものなのでしょうか?

福圓「『あ、今明らかに、あの男役のキャストが嫌われている』なんていうのは、すぐにわかります。女性目線のお話が多いので、女性のお客さんはどうしても女性側の味方についてしまうんですよ。逆に男性客が多いと、エキセントリックな女性についていけていない空気を感じます。『あ、引いてる引いてる』って(笑)」

――話は変わりますが、福圓さんが舞台を始めたきっかけは?

福圓「小学校のころからずっとアマチュアで舞台をやっていて、18からまたアマの小さな劇団に入って……プロとして芝居に関わっていたわけではないのですが、舞台が好きで、ずっとやっている感じです」

――そこから声優という職業を選ばれたわけですが

福圓「最初のころは同じように考えていたんですよ。同じ芝居をする仕事だって。声優を始めたのは17歳ぐらいだったので、その頃は『演技ができる!』っていうだけで何も考えずにやっていたのですが、突き詰めてお仕事をさせていただいていくうちに、その2つはやはり違うものだということがわかってきました」

――先ほどもお話いただきましたが、同じ演技をする仕事とはいえ、違いがあるわけですね

福圓「最初はその違いをなかなか切り替えることができなかったのですが、最近ようやく、アニメはこういうスイッチ、舞台はこういうスイッチというのがだんだんとわかってきました。なので、アニメでも生っぽい表現が必要とされた場合は、あえてアフレコのスイッチを入れず、舞台の感覚で演じてみたり、逆に舞台でも、キャラクター性が重要視されるコメディっぽいものだと、声の仕事をするのに近い感覚で演技をしたりします」

(次ページへ続く)