――『もやしもん』の場合、菌は主人公の沢木にしか見えないわけですから、それを客観的に見せるのはかなり難しかったのではないかと思うのですが

「第一話の前半までは、沢木の主観にしか菌はいないような表現になっています。ただ、シリーズ全体をそれで通してしまうと、見せ方が狭まってしまう。なので、火落ちの大群に巻き込まれるあたりを境に、グループショットのシーンにもいるし、寄りのシーンにもいる。沢木の主観以外にも菌たちがいるという感じになっています。ここで壊しておかないと、いろいろな楽しいことができなくなりそうだったんですよ」

――菌は後から合成するわけですが、やはり通常の撮影時から菌を意識して撮影を行っているのですか?

「沢木の主観以外にも菌は出てきますが、菌はあくまでも沢木以外には見えないという設定なので、あまり意識して芝居をしてもらうということはしていないです。ここに菌のセリフを入れたいので、ちょっと間を取ってくださいといった指示を僕のほうから出す程度ですね。沢木役の中村(優一)君だけは菌を意識しないといけないわけですが、中村君は『仮面ライダー』に出演していたこともあって、見えないものを相手にするのがうまいんですよ。なので、そのあたりには何の苦労もなかったですね」

――菌を合成する際の苦労などはありますか?

「撮影途中に、1、2話のオフラインが上がってきたので観てみると、ちょっと地味な感じだったので、菌の登場するカットを少し足してみたんですよ。結果としてはそれが良かったのですが、人間のお芝居にあわせると、どうしても菌が小さくなって目立たなくなってしまう。なので、菌用のカットをたくさん撮っておくことで、ちゃんと菌たちも主張できるようにしています」

――実際に出来上がった映像で気がつくところも多いということですね

「あと、最初に合成シーンを観たときに、オリゼーの口の中が白いのに、すごい違和感を感じたというのもありますね。オリゼーの口の中って白いんですけど、これって歯じゃないよなって(笑)。オリゼーは黄色いので、口の中が白いと色が馴染んで見えにくいというのもあったので、実写版では直してしまおうとも思ったのですが、観る方にとってはこのままのほうがいいんだろうなということで、結局は白のままで落ち着きました」

――絵で見ているとなかなか気にならない部分ですよね

「そうなんですよ。でも実際に実写と合成して陰影をつけたら、何かおかしいなって……。いずれにせよ、今回の『もやしもん』は樹ゼミの人間同士の係わり合いがメインで、菌たちはそのオマケといった感じなので、無理に直すほどのことではなかったですね」

――人間同士のドラマがメインということですが、キャスティングについては監督が中心になって決めたという感じですか?

「プロデューサーから何人かの候補が上がってきたのですが、僕からも意見を出しています。それで実際に会ってみて、イメージにあわせて決めていった感じですね」

――主人公の沢木を演じる中村さんの魅力はどんなところですか?

「個性が強いキャラクターばかりの『もやしもん』の中で、沢木は菌が見えるということ以外は地味な設定なんですよ。でも、そんなキャラクターを、平凡にみせながらも魅力的に演じられる中村君はすごいなと思いました」

――今回、結城蛍役には女性の岡本あずささんをキャスティングされています

「実写化するにあたって一番難しいと思ったのは、男なんだけど、女の格好をしていて、しかもすごく綺麗という蛍なんですよ。男の役者にやらせたら、絶対すごく綺麗にはならない。でも逆に女の子が演じると、か細くてなって、絶対に男には見えなくなるだろうなっていうところがあって、実は今回、設定の段階で少し変えている部分があります。そこは原作の石川雅之先生と話し合って決めているのですが、そのあたりもぜひ注目していただきたいですね」

――美里役に笑い飯の西田幸治さんというのは決め打ちですよね

「そこは、原作どおりといった感じです(笑)。最初はすごく緊張されていたみたいですが、慣れてきたらみんなのことを引っ張ってくれて、面白いアドリブなんかもいっぱい入れてくれたので、すごく良かったですね。やはり西田さんや川浜役のバッファロー吾郎の木村さんなど、お笑いの方がいらっしゃると現場が和みますよね。みんなで笑っていると、役者さんたちにも仲間意識が出てきて、お芝居にもすごくよい影響が出てくるんですよ」

――現場の雰囲気というのはやはり重要ですよね

「あと、原作の石川先生は関西出身なので、笑いに厳しくて、すごくこだわりがあるんですよ。今回、シナリオを作るときには、全部入ってもらっているのですが、石川先生が一話丸ごと書いている回もあります。あと、衣装についてもかなり相談していますね。おしゃれな方なので、各キャラクターの衣装にもちゃんと意図があるんですよ。蛍のゴスロリと遥のボンデージについては、何種類か用意して、石川先生のイメージに合うものを選んでもらっています」

(次ページへ続く)