ゲームとアニメのちがい

――藤田さんのお話にもありましたが、ゲームではそれぞれ別々に収録を行っていたところを、アニメになってほかのキャストの方と一緒に収録を行ったときに、あらためて感じたことはありますか?

小林「実は第一話の収録のとき、アフレコ現場にゲームを持って行って、直前までプレイしていたんですよ。なので、収録が始まって皆さんの声を聞いたときは、『あ、○○さんだ』って感動しました(笑)。キャストの皆さんも同じようにおっしゃっていたのですが、こういったところは、ゲームからスタートした作品ならではの醍醐味といいますか、うれしい瞬間なんだと思います。ゲームでは自分一人がブースの中にいて、たとえばマナちゃんとの会話であれば、咲ちゃんのお芝居を想像しながら演じることになるわけですが、それが実際に目の前に咲ちゃんがいて、こちらが投げたボールを投げ返してくれる。そして、それをまた自分で受け取る。これが臨場感だったり、リアルな現実感だったりを生み出すわけですし、それを生身の自分が感じることができるというのは、本当に計り知れない喜びなんですね。博士さんの場合、ゲームの序盤では私の声が入っていないのですが、アニメでは第一話からものすごいセリフ量をいただけてとても嬉しいです。なので、転入してきた博士さんと同じく、フレッシュな気持ちで、アフレコに挑むことができたのではないかと思います」

――ゲームをプレイしながら、自分の声が収録されていないところに、声をあててみたりってことはありましたか?

小林「します、します(笑)。ゲームに限らず、マンガや本を読んでいるとき、自分の役とかは関係なく、勝手にアフレコみたいなことをして楽しんでしまうのですが、今回は特に自分がいただいている役なので、画面の文字を見ながら、ずっと声を出していました。あと、皆さんのセリフを繰り返して何度も聴いたりして(笑)。何だかとても楽しくなってくるんですよ」
藤田「あ、それわかります。楽しいですよね(笑)」
小林「それで、家族のところに持っていって、『これが咲ちゃんだよ』とかいって聴かせたりするんですよ(笑)。聴いているだけでうれしくなっちゃうんですよね」

小林ゆうが演じる九澄博士(左)と藤田咲が演じる九澄マナ(右)

――藤田さんの場合は、ゲームのほうでもガッツリとセリフがあったと思いますが、アニメのアフレコはいかがでしたか?

藤田「マナの視点でお話をすると、台本を読んで、一人で演じていたときは、強く出る部分をすごく強く出すことができたんですよ。私も実際に兄がいるんですけど、立場がすごく似ていているんですね。ちょっと頼りないお兄ちゃんに対して、しっかりしなきゃって思っている妹という感じで、だらしのない部分には、けっこうビシビシといけたんですよ。それがアニメになって、目の前でゆうちゃんが演じてくださっているのを見ると、何もそこまで厳しくする必要はないのではないかっていう気持ちが、藤田咲という私個人の部分から芽生えてしまったりもするんですよ。なので、収録前のテストでは、ちょっと躊躇したりする瞬間があったりもしますね」

――目の前に相手がいることによって、新たな一面が出てくるといった感じでしょうか?

藤田「そうですね。これはみんなでアフレコをやっているからこそ、生まれてくる感情なんだと思うんですよ。五十鈴ちゃんやかなめさんに対しては、すごく取り繕って、社交性があるように見せたりするのですが、周りに人がいると、その"取り繕って笑っている"という瞬間がすごくリアルに感じられるんですよ。ゲームにおけるマナは、とてもストレートなマナとしてひとつの完結した形なのですが、アニメになって皆さんと一緒にアフレコを行うことで、また違った面が膨らんでいくんだなって思いました。それは楽しいというよりも、新しい発見でしたね」

――そのあたりは、やはり会話をする相手によって変わっていく感じですか?

藤田「マナの場合、家の中でのシーンが多いんですよ。お父さんの正明さんがいて、お兄ちゃんの博士君がいて、マナがいる。そんな中で、正明さんがすごくムードメーカーになっているんですよね。それはやはり藤原(啓治)さんの演技がすばらしいということもあるのですが、それによって私も安心して、小学生らしい、ちょっとおませな雰囲気を出すことができますし、何か温かく包まれているような気持ちになれて、『家族っていいな』ってアフレコのたびに思うんですよ。家の外に出るシーンでも、ただのアウトローな雰囲気ではいけないなっていう気持ちが自分の中に芽生えて、社会で生きるというのはこういうことなのかって(笑)、そういうところまで考えさせられるのが、みんなで一緒に収録していることの醍醐味なんだと思いました。なので、ゲームでの雰囲気とはまた違った一面がお見せできるのではないでしょうか」

――ゲームでのマナは、特に博士に対しては冷たい印象があります

藤田「アニメでは、セリフ自体も少しマイルドになっている気がします。ゲームのときは、『プレイヤーの皆さん、マナの冷たさに負けないように頑張ってください』ってエールを送っていたのですが(笑)、アニメでは、あそこまで強いマナではなく、少し"甘え"のようなものも出せているのではないかと思います。そして、香織お姉ちゃんに対しては、最大限のデレが出ています」

――ゲームのマナは恐いですからね

藤田「恐くないですよ! でも、現場のゲームのディレクターさんからは、リアリティがあるねって言っていただきました(笑)」

――ゲームの収録のときは、やはり実際のお兄さんを想像しながら演じていたわけですよね

藤田「もちろんです。本物の兄が博士君だと思ってやっていましたよ」
小林「アニメでもマナちゃんは、お兄ちゃん以外には『~ですよね』みたいにすごくかわいくて、よそいきのお顔をされているのですが、博士さんに対しては、『うちのお兄ちゃんはこんなだから』みたいなことを言うんですよ(笑)。でも、そういうのって、本当にリアルだなって思うんですね。家族に対してだから言える。声のトーンも違ってくると思うんですけど、それだからこそ"家族"なんだなって。心の中で通じ合っているからこそ、思い切りぶつけても大丈夫だし、お兄ちゃんはそういうマナちゃんがかわいくてしかたがないので、腹を立てることもなく、『しょうがないなあ、やれやれ』、みたいな感じになるんですよ」
藤田「ゆうちゃんが演じる博士君の愛情はすごく伝わってきます。マナも分かっているから、自由奔放でいられるんでしょうね」
小林「愛情はありますよ~(笑)。本当にかわいいなって思いますもん。かわいさってニッコリとしながら『お兄ちゃん、お兄ちゃん』って寄って来るようなタイプのかわいさもあると思うのですが、そうではないかわいさというのもあると思うんですよ。つっけんどんに、『うちのお兄ちゃんはこんなんだよ』とか、五十鈴ちゃんのお兄ちゃんと比べたりするところもあるのですが、それが逆にかわいかったりしますし、それは一番近い関係で、信頼されているからこそだと思うんですよ。なので、私はそこにすごくリアリティを感じていて、本当の兄弟のような、自然な雰囲気を作り出せているのではないかなって思っています」

――やはり藤田さんは、小林さんのことをお兄ちゃんだと思って演じているわけですよね

藤田「もちろん、ゆうちゃんのことを本当のお兄ちゃんだと思って演じています(笑)。主観ですが、アニメーションのほうが博士君もカッコよくなっている気がするんですよ。ゲームの場合は、博士君の内心を読み進めながらだったので、外には見せない弱い心の叫びも見えて、それがより頼りない印象を持たせていたのかもしれないですけども」
小林「ゲームの収録のとき、最初にテストで私が演じさせていただいた博士さんはかなり大人っぽくて男っぽかったようです。スタッフの方から、もっと年齢を下げた感じでという指示をいただきまして、高校生よりももう少し子どもっぽく演じさせていただいているんですね。アニメでもそのあたりは基本的に変わらないのですが、やはり新たな一面が見えてきているというところもあります」

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