――さて、昨年歌手生活25周年を迎えられたということですが、これまでの道のりでもっとも印象的だったことは何ですか。
「やはり『天空の城ラピュタ』の『君をのせて』でしょうか。もう23年も前の作品になりますね。最初、ラピュタのサウンドトラックに入るということは聞いていたのですが、どんな映像で、どんなところで流れるのかは知らなかったんですよ。試写会にいったときも、レコーディングはしたけれど、本当に流れるのかなって思っていたぐらいで。それが、本当の最後の最後、ラピュタのエンディングで流れたときは、ちょっと感動しましたね」
――エンディングとは聞いていなかったのですか?
「エンディングと聞いてはいたのですが、映画の途中に合唱で『君をのせて』を歌うシーンがあったので、『え? 私の歌はボツになったの?』って思っちゃって(笑)。それ以外でも、メロディだけは何回も出てくるのに、私の歌だけは流れないし……。実は8月公開なのに6月にレコーディングをしているくらい急なお話だったので、パンフレットにもチラシにも私の名前は入っていないんですよ。間に合わなくて。なので、最後に自分の歌が流れたときには本当によかったと思って涙が出ました。もちろん26年の間の思い出はたくさんありますが、それが一番印象に残ってますね」
――ラピュタのエンディングを歌ったのは、デビューしてすぐぐらいなんですね
「そうですね。アイドルデビューして、売れなくて(笑)、どうなるんだろう私って思っていたときに、ラピュタのオーディションで受かってこの曲に巡りあって……。自分の中でも転機になる曲だと思っていたので、映画の最後に自分の歌が流れたときは、本当に歌手になってよかったなって思いました。それからいろいろなお仕事をたくさんいただけるようになったので、歌手として生き残れるかもって思えた曲でもあります」
――そこで、手ごたえをつかんだわけですね
「そのときは、そう思ったんですけどね……。続いて『となりのトトロ』を歌わせていただいたけど、でもやっぱりアルバイトもしていて、みたいな感じでした(笑)」
――アルバイトですか?
「そうなんですよ。ずっとバイトをしていました。実はそれほど売れてなかったんですよ、みなさんが思うほどには。『魔女の宅急便』の曲を歌ったときもまだバイトをしていました。バイトをせずに歌だけで生活できるようになったのは、『ファミリーコンサート』をやりはじめてからですね。なので、歌手生活25周年といわれても、あまり実感がなかったですね(笑)」
――ちなみに、当時はどういったアルバイトをなさっていたのですか?
「普通の喫茶店とか本屋さんですよ。時給650円でしたね、当時(笑)。ラピュタにせよ、トトロにせよ、すばらしい作品をいただいてはいたのですが、それを活かす術がなかったんですよ。コンサートを始めた当初も月に3本あったらすごいっていう感じでしたし。それが、去年は25周年ということもありましたが、100本もやらせていただきました。月に20本ということもありましたし」
――それだけレパートリーも充実してきたということですね
「そうですね。でも実を言うと、TVアニメの歌ってあまり歌っていないんですよ。『こんにちは アン』の前に歌った『フラカッパー』が初めての主題歌でした。たった10秒ですけど(笑)。『フラカッパー』のレコーディングのときは、事前にまったく資料がこなくて、とりあえずプロデューサーに呼ばれて現場に行ったら、『こんな感じで』って突然言われまして。10秒の主題歌というのも初めてでしたが、あんなレコーディングも初めてでしたね」
――10秒だと、主題歌というよりもジングルみたいですね
「ジングルですよね、本当に(笑)。なので、主題歌という意識はあまりなかったんですよ。それで、『こんにちは アン』のときに『これが初めてのTVアニメの主題歌です』って言ったら、谷田部監督に『ちがうでしょ、フラカッパーもあるよ』っていわれました(笑)。実は『フラカッパー』も『こんにちは アン』と同じ谷田部監督だったんです」
――いずれにせよ、『こんにちは アン』が2作品目というのは意外です
「主題歌に関わらず、TVアニメは本当に少ないんですよ。『世界名作劇場』についても『本当に初めてなんですか?』って、よくいわれます」