カーヴァドの扉の向こうには、ジティッシュ・カッラトの『アーティスト、ただいま市内電話中』が見える。この作品もデジタル加工によるもので、2分おきに撮影した時間軸の異なる写真をデジタルでつなぎ合わせパノラマにしたもので、その中にはオートリキシャーと、それと取って代わって普及してきたタクシーが残像のように重なって見えている。この他、カッラトの作品にはファイバーグラスを動物かモンスターの骨のように組んでオートリキシャーに仕立てた『オートザウルス・トリポウス』や立体視の素材であるレンチキュラーを使って、一方向から見ると"一分間たったの1ルピーで通話できる"格安電話の記事、もう一方向からは"1ルピーの給食費が払えずに自殺した少女"を報じる記事を見る事ができる『格差の死』など、変貌しつつある現代インドの都市風景や都市と地方の間に生まれる格差を描いた作品が見られた。

アーティスト、ただいま市内電話中/ジティッシュ・カッラト

オートザウルス・トリポウス/ジティッシュ・カッラト

同様にヴィヴァン・スンダラムの『マスタープラン』やヘマ・ウパディヤイの『静かなる移動』のように、都市から出る大量のゴミや廃棄物を使って都市の姿を現出させている。大量生産、大量消費と言えば、大量の弁当箱「ダッバー」をシャンデリアのように吊るしたスポード・グプタの『オーケーミリ』は圧巻だ。また、インド技術の象徴とも言える、ロイヤルエンフィールド社製のロングセラー・バイク、Bulletを題材にした『弾丸』のように、経済自由化の後の忘れ形見のようでもある。このように都市化、経済自由化で変貌してきている現代インド社会の問題をテーマに取り上げた作品が多く見受けられた。

静かなる移動/ヘマ・ウパディヤイ

弾丸/スボード・グプタ