それ以上にテレビマンたちにとって頭が痛いのは、各局の財産であるコンテンツをネット動画に活用され、収益化されてしまうこと。放送収入減で制作費の削減が進む中、「アーカイブの効果的な活用」は各局共通の課題であり、特にコロナ禍以降はその動きが顕著に見られていた。

しかし、テレビマンたちは結局、視聴率獲得という前提から逃れられず、スポンサー配慮やコンプライアンス遵守などの必要性もあり、アーカイブを成果につなげられるケースは少ない。あるいはアーカイブを自局系動画配信サービスの有料会員獲得につなげたいところだが、それも成功とは言いづらいところがある。

さらに、今回の『友近サスペンス劇場』は、リアルイベントを仕掛けるなど、収益化やファンサービスにも抜かりなし。いつどこでも会員登録不要で見られる使い勝手のよさがある上に、収益を得るスピード感もあるなど、テレビマンたちにとって自局との差を考えさせられる点は多い。

ちなみに『フィルムエストTV』を手がけ、脚本・監督を担う西井紘輝は現在29歳。まだ20代の若い世代が昭和のコンテンツをほぼ完全再現できたことに驚かされるのではないか。

『フィルムエストTV』にはバラエティやスポーツなども含め数多くの昭和パロディ動画が公開されている。10・20代における近年の昭和ブームもあって、中高年層だけでなく若年層にもニーズがあることは間違いないだろう。

加えて『友近サスペンス劇場』は「わずか6日間、17人のスタッフで撮影した」というから、テレビマンたちには技術とセンスだけでなく、勇気と覚悟が問われているのかもしれない。

  • 道後温泉

  • 「門屋組」のCM

  • (C)フィルムエストTV

友近の地元・愛媛との幸せな関係性

最後にもう1つふれておきたいのは、撮影における地域との連携。

『友近サスペンス劇場』は松山市の道後温泉、今治市、伯方島などでロケが行われた“オール愛媛ロケ”の作品。また、架空の人物によるフィクションだが、実在する場所でロケが行われ、さらにCMに登場する企業も実在するという。

近年、作品の舞台となり、人気俳優が訪れたロケ地をめぐる人が増え、全国の自治体が観光客増や地元活性化を狙ってドラマ、アニメ、映画などの誘致を進めている。実際、友近と西井監督は制作が決まったとき、愛媛県庁で知事を表敬訪問していた。また、作品では名所や名産が紹介され、地元の人々も多数登場していたが、これだけヒットすればロケ地をめぐる観光客が増え、地域と住民の活性化につながるだろう。

各地の自治体観光課、フィルムコミッション、ロケーションサービスは、シーンに合うロケ地の提案、エキストラや食事・宿泊場所の手配など、キャストとスタッフの受け入れ態勢を整えている。加えてメインキャストの友近とモグライダー・芝大輔は、ともに愛媛県出身。ご当地タレントが出演するのなら地元のモチベーションはさらに上がるはずだ。

制作サイド、ロケ先、視聴者の3者が「ウィン・ウィン・ウィンの関係性になれた」と言っていいだろう。これは本来、公益性を求められるテレビが進めるべき関係性であり、逆に嗜好性の高いネットコンテンツでは成立しづらいものだった。しかし、今回のヒットでYouTubeがそれを成立させられる時代が訪れたように見える。

それどころか、『友近サスペンス劇場』のような地元貢献度の高そうな企画であれば、現時点でも「テレビのロケよりYouTubeのロケが優先される」のかもしれない。長年、影響力の大きさで他コンテンツに対する優位性を保ってきたテレビ業界にとっては頭が痛い事態ではないか。