ゴールデンタイムに入る前の夕方は、2つのスタジオを使って16組がヒット曲を歌いつなぐ「hope songライブ」だったが、これはよくあるメドレー企画。ただ裏を返せば、「『音楽の日2024』は、King & Prince、なにわ男子、Mrs. GREEN APPLE、マカロニえんぴつ、ゆずらの人気者を18時台に配置できるほどのラインナップ」ということだろう。
恒例の大合唱企画はSUPER BEAVERの「小さな革命」。番組の募集によって全国から集まった242人が練習して挑んだ大合唱も過去最高レベルの熱気。キャスティング、楽曲のメッセージ性、現場の盛り上がりと一体感など非の打ちどころがない仕上がりで、242人の達成感あふれる表情に引きつけられた。
この企画に限らず『音楽の日』はアーティストとスタッフだけではなく一般人も一緒にエンタテインメントを作り上げるようなムードがある。それは「ここだけで見られるライブ」の臨場感にスポットを当てた企画・構成・演出を徹底しているからであり、それはいまだ民放各局にとって至上命令の視聴率獲得に向けた最善策なのかもしれない。
そして最大の目玉企画は「ダンスバトル」。ゴールデンタイムの20時台に約1時間を使って放送されたことがそれを物語っている。今回のテーマは「垣根は越えた!今度はバトルだ!」。昨年事務所の垣根を越えたコラボを初めて実現し、今年はあえて正面からぶつかり合うというコンセプトだが、「公開処刑」などとスキルの差を世間にさらされるリスクもあり、まさに前代未聞のコンセプトだった。
しかし始まってみると、各グループのパフォーマンスは「叩かれるグループや個人がいるのではないか」という不安を軽々と超えてきた。他アーティストの楽曲をオリジナルの振り付けで踊る「グループ対抗ダンスバトル」も、グループのトップを集めた「1on1ダンスバトル」も、総勢125人でシンクロダンスした「大フィナーレ」も、勝敗や優劣を超越した唯一無二のコンテンツ。
その技術、熱気、プライド……「いくら払えばこのライブが見られるのか」と思わされるレベルのステージだった。「ダンスだけで土曜20時台の1時間をやり切った」という事実も含め、「日本のダンス&ボーカルグループはこれくらいの技術とダンスのスタイル、そして熱量がある」という名刺代わりの映像になるのではないか。
若手偏重のキャスティングは当然か
最後は人気ボーカリストを集めた一夜限りの「hopeバンド」が登場。ただ、これは「日本に希望を与えた名曲の数々をカバーする」という定番企画だった。
歌われた楽曲は「ultra soul」「GIFT」「デイ・ドリーム・ビリーバー」「生まれ来る子供たちのために」「キセキ」「栄光の架橋」「TRAIN-TRAIN」「夜空ノムコウ」「時代」で、歌ったのは、SixTONES・ジェシー、マカロニえんぴつ・はっとり、DISH//・北村匠海、アイナ・ジ・エンド、DA PUMP・ISSA、Da-iCE・大野雄大・花村想太、Rockon Social Club・成田昭次・岡本健一、三浦大知、MISIA。
最後のMISIA以外は既出のアーティストであり、正直なところ「日本最高峰の歌い手か」と言えば賛否があるところだろう。しかし、「今、楽曲のアーティストであるB’z、Mr.Children、小田和正ら大物が出演したら視聴率をとれるのか」と言えば簡単ではないのが実際のところ。大物を出せばいいというわけではないところに音楽番組の難しさがある。
しかしそれでもTBSがターゲットに掲げる新ファミリーコア(男女4~49歳)を引きつけるべく、出演アーティストの大半が若手に偏っていた感は否めない。全71組中ベテランと言えるのは、郷ひろみ、アリス、爆風スランプ、島津亜矢、Rockon Social Club、奥田民生、長渕剛、THE ALFEEが1曲ずつ歌った程度だった。
もちろんそのことに問題はなく、ビジネス上は当然かもしれないが、一方で音楽番組の多様性は失われている。だからこそ、例えばダンスバトル後の1時間はベテラン、できれば大物アーティストのコラボを見せてくれたら……と思ってしまった。
それ以外の“アラ”を探すとしたら、時折「世界レベルのSPダンスメドレー」「上半期の大ヒットソング!」などとテロップのあおりが行き過ぎていたこと。また、メイン企画の大合唱とダンスバトルに挟む19時台にSnow Manの「3曲スペシャルメドレー」を組み込むあからさまな特別扱いに違和感の声があがっていた。
ただ、いずれも『音楽の日2024』の高いエンタメ性が損なわれるほどのレベルではないだろう。