そもそも世間の人々にとっては、さまざまな番組のジャンルがある中、「調査結果がドラマとバラエティの2つに絞られている」ことに疑問を抱く人もいるのではないか。
もちろん、「視聴率と配信再生数が高い」という事実はあるが、その本質は「各局が稼ぎたいのも、スポンサーが提供したいのも、ドラマとバラエティだから」ということだろう。この2ジャンルでテレビ局は視聴率と配信再生数を狙うのはもちろんだが、局全体のイメージアップやブランディングにもつなげていきたい。一方、スポンサーは視聴率と配信再生数の高さにとらわれすぎず、イメージのいい番組を選んで企業や商品のイメージアップやブランディングにつなげていきたい。
ネットの普及で自由に発言するなど個人の影響力が高まった今、視聴率や配信再生数というデータと同等以上に、テレビ局や企業・商品のイメージが重要になっている。つまり「どれだけ見られているか」だけではなく、「どれだけイメージがいいか」も同じくらい重要という時代になったということだろう。
ビデオリサーチによるコンテンツカルテは、今回公表された番組好感度のほかに、認知度、視聴頻度、視聴経路、イメージなどをまとめた評価と、出演者や企画内容など各項目のクリエイティブに関する評価で構成されているという。さらに、テレビ番組だけでなく動画配信も含めたコンテンツ全体を比較できるようになったほか、調査回数を年2回から4回に、調査サンプル数を約800から約2,000に拡大するなど、かなり力を入れた取り組みと言ってよさそうだ。
特にテレビ番組同士だけではなく、配信オリジナルコンテンツとの比較が可能になり、それぞれの強みや評価の上下動などが把握できるようになったことは大きな進歩。それ以外でも、「この番組はテレビで見られているのか、それとも見逃し配信サービスで見られているのか」「それは視聴習慣によるものなのか、それとも偶然見たのか」などの詳細も把握できるという。
ひいては、視聴者のプロフィールや生活習慣などに関するデータとかけ合わせることで、より番組のポジショニングがクリアになる。いずれにしてもスポンサー企業にとっては効率のいい提供が可能になるだろう。
テレビ局に都合のいいデータ公表
コンテンツカルテによってスポンサーは、「視聴者にその番組における提供企業として認知されているのか」「それによってどんなイメージを与え、どんな効果を得られているのか」なども知ることができる。
これまで「この番組のスポンサーはこの企業」という印象のひも付けが弱く、その認知や効果はあいまいにされてきた。しかし、もはやそのようなスタンスがスルーされない時代になり、テレビ局にはスポンサー企業が認知や効果を明確に把握できるような工夫が求められていくだろう。
「良くも悪くも各番組の具体的な評価が可視化されるようになった」という点で、スポンサー企業にとって「コンテンツカルテ」はメリットの大きいサービス。また、今回のように「ドラマとバラエティのベスト5」という良いところだけを抽出してニュース化することで、テレビ局にとっても番組のイメージアップやブランディングなどのメリットが得られる。
一方で「視聴者不在」という感が否めないのも事実。営業的な調査でありデータであれば問題ないのだが、外部に公表していくのであれば、都合のいい「ドラマとバラエティのベスト5」だけで納得してもらうことは難しいだろう。
さらに、各自が思う好感度とのズレも、テレビへの疑問や不信につながりかねない危うさを感じさせられる。例えば、今回の結果でも「何でこの番組が入っていてこの番組が入らないのか」「本当にこの番組の好感度が高いのか」などと感じた人は多かったのではないか。
個々の好みが細分化され、多様性の尊重が求められる今、「ドラマとバラエティのベスト5だけを公表」というやり方は時代に合っているようには見えない。実際、テレビ業界に対する世間の目は厳しく、リリースに対して「自分たちの都合で情報操作をしている」などとみなす人も少なくないだけに、データを公表するならできるだけ透明性の高い形を選ぶべきだろう。