逆に、昭和・平成の『ものまね王座決定戦』(フジ)や『ものまねグランプリ』(日テレ)の軸となっていた笑いを誘う“デフォルメありき”のものまねは散発的になった。
長年ものまね特番を盛り上げてきた、ものまね四天王、原口あきまさ、ホリ、ミラクルひかるらの系譜を継ぐ新星も見当たらない。『千鳥の鬼レンチャン』(フジ)の「サビだけカラオケ」に出演するような松浦航大、よよよちゃんなどの“歌うまものまね”が目立つ構成・演出に変わっている。
これはYouTubeやTikTokなどネット上の動きを踏まえつつ、若年層の個人視聴率を取っていく上での戦略であり、一方で炎上を恐れてデフォルメものまねをする芸人が減ったことの影響もあるのだろう。
いずれにしても、笑いを誘われるシーンが減り、「うまい」と感じさせるシーンが増えたことは間違いなく、ものまね特番から笑いという観点でのエンタメ度が下がった感がある。その点、『細かすぎて』のものまねは笑わせることがベースとなっている上に、“落とし穴”というオチがあるため、笑いの手数が圧倒的に多い。テレビ番組全体を見渡しても、コンプライアンス遵守や表現の自主規制などから笑いを誘うシーンが減り、パターン化しがちなだけに貴重な特番にも見える。
さらに、今回の番組内でも何度かふれていたが、「知らないから、本物を見たくなる」という“後追い”の楽しみも『細かすぎて』の強みだろう。新たなテレビ番組の楽しみ方を提示したという点で画期的であり、動画やVODなどで元ネタを確認できる現在の時代に合っている。
特番化以降くすぶる3つの不安
しかし、「『細かすぎて』の現状が盤石か」と言えば、あやうさを感じられるところも少なくない。以下、特番が放送するたびに指摘される3つの不安要素を挙げていこう。
最も不安を感じさせられるのが、「以前ほど笑えなくなった」という声の多さ。なかでもオーディションのスケールを広げたあたりから、「『マニアックで分からないのに笑える』という持ち味が以前よりも薄れた」という指摘が散見される。
つまり、今回のような視聴者数の多い『土曜プレミアム』枠における2時間10分特番になったことで、「分かりやすいネタが増えた」と感じた人が多いのではないか。もしそうなら、番組のファンほど「もっともっと“細かすぎて伝わらないネタ”でいい」ということなのかもしれない。もし制作サイドがコア層の個人視聴率獲得にウェートを置きすぎているとしたら、熱心なファン層を失うリスクがありそうだ。
ちなみに、今春スタートの『モノマネMONSTER』は「ガチ歌部門」「多分こうだろう部門」「勝手にアンコールライブ部門」「ギャップ部門」の4部門に分けた構成で、「多分こうだろう部門」は『細かすぎて』のネタと似ていた。ネタのコンセプト自体が過剰に消費されているとしたら、今後苦しくなっていくだろう。
2つ目の不安は「放送時間が長すぎる」「ネタの数が多すぎる」という指摘。要は「もう少し絞って本当に面白いものだけを見せて欲しい」ということになる。この「長さと多さは前述したように、長所であるとともに、短所にもなりうる」というテレビ番組だからこその難しさだ。
3つ目の不安は「出演者のツッコミやフォロー不足」という指摘。事実、特番化して以降、今回の放送後まで、関根勤、木梨憲武、有田哲平、バナナマンの不在を嘆く声がネット上に書かれ続けていた。『細かすぎて』は彼らによる一流のツッコミとフォローあっての企画であり、「石橋貴明、柴田英嗣、山崎弘也の3人では足りない」とみなされているのかもしれない。
とはいえ、石橋を地上波で見られる貴重な番組とみている人も多く、『とんねるずのみなさんのおかげでした』を懐かしむような声も目立つ。さらに、同じものまね企画の『2億4千万のものまねメドレー選手権』を筆頭に、『食わず嫌い王決定戦』『モジモジくん』『全落・水落』などの復活を望む声があがっていた。そのためには、中核となる『細かすぎて』が健在であり続けなければいけないだろう。