4つ目の理由は、「制作費を抑えたい」という制作サイドの事情。制作費の削減に悩まされる現場サイドにとって、話題性がありコストが抑えられる新人育成の重要度が増している。逆に「よほどの視聴率アップが期待できなければ、フリーアナやタレントの起用は難しくなっている」という。
5つ目の理由は、1人でも多くの人気アナウンサーが必要だから。元テレ東・森香澄のように20代であっさり退職するアナウンサーも決して珍しくなくなった。さらに、若手に限らず「アナウンサーも長いキャリアの一部分」と考え、タレント、俳優、ジャーナリスト、あるいは一般企業への転職や起業する人もいる。
また、働き方改革の影響に加えてコロナ禍を経たことで、報道・情報番組が「曜日でMCを分担する」などのリスク管理をするようになったことも、より多くの人気アナウンサーが必要になった理由の1つだろう。
かつて女性アナウンサーの人気者は、その大半が20代だった。しかし近年は若手のスターを育てるのが難しくなっているからか、「少しでも早い段階から起用し、認知・育成を進めていこう」という姿勢が見える。
「新人の早期起用」は今春に限った話ではなく、2018年から19年にかけてその流れがあった。
まず18年に、日テレが『行列のできる法律相談所』に市來玲奈、『世界まる見え!テレビ特捜部』に岩田絵里奈、テレ朝が『ミュージックステーション』に並木万里菜を抜てき。続く19年にも、テレ朝が『羽鳥慎一モーニングショー』に斎藤ちはる、TBSが新番組『グッとラック!』に若林有子、テレ東が『モヤモヤさまぁ~ず2』に田中瞳、『THEカラオケ★バトル』に森香澄を抜てきしていた。
そのほとんどが人気番組だけに、番組ファンからの拒否反応が危惧されたものの、大きな混乱はなし。むしろ歓迎の声が多かったことで、20年代に入ってもその傾向は続いているのではないか。
「新人」が通用するのは数か月程度
前述したように新人アナの早期起用は、ミスのリスクや視聴者の批判と背中合わせの人事であり、先輩アナウンサーだけでなく、現場スタッフの手厚いフォローが求められる。
最初の試練は、わずか数か月で鮮度が薄れ、「新人アナだから」という温かい目で見てもらえなくなってしまうこと。その間、いかに技術を上げ、人柄に親しみを持ってもらえるか。個人の力では限界があるだけに、多くの人々が関わりながら育成していく中期的な姿勢が問われている。
最後に、話を冒頭に挙げた『FNS明石家さんまの推しアナGP』に戻すと、“推しアナグランプリ”に選ばれたのは、何と新人の上垣皓太朗だった。これといったトークはなかったものの、その新人らしからぬ佇まいで「ベテラン」「管理職」「局長」などとイジられていたが、この生かし方も想定済みの採用だったのではないか。
それにしても同番組は笑いの密度が濃く、MCのさんまも多彩なキャラとトークを楽しんでいるような姿を見せていた。先輩アナウンサーたちのトーク力と存在感は若手・中堅の芸人に負けないレベルだっただけに、新人たちにとっては参考になっただろう。
民放のアナウンサーは、「新人時代は注目を浴びて、期待を一身に背負っていたが、数年後に他部署への異動する人もいる」というシビアな世界。抜てきされた彼らがどんな奮闘を見せ、生き残っていくのか。そんな人生ドラマや職業ノンフィクションのようなところも、彼らに引きつけられる理由の1つかもしれない。