女性アナウンサーは90年代ごろから「『どんなキャラクターで視聴者にアピールするか』を考え、個性を武器にフリー転身する」という傾向があった。一方、男性アナウンサーは「まじめ」「誠実」の一辺倒だったが、2010年代ごろから現在にかけて「熱血」「天然」「筋肉」「オタク」など、さまざまなキャラクターをアピールする人が増えている。
フリーはなおのこと、知名度に加えてアナウンス技術の安定感・安心感は当然として、親しまれるようなキャラクターがなければ、わざわざ「報道・情報番組に起用しよう」という話にはなりづらい。前述した藤井、青井、上重も、局アナの時以上に、家族や交友関係、趣味や推しなどのプライベートも含め、視聴者に伝えて親近感を与えていきたいところだろう。
そしてもう1つのポイントになるのが、バラエティへの対応力。例えば現在で言えば、羽鳥慎一、宮根誠司、石井亮次らが帯の報道・情報番組のメインを担いながら特番を含めバラエティにも出演しているが、これはフリーアナウンサーのトップ・オブ・ザ・トップのみがなし得ること。過去を振り返っても久米宏、草野仁、小倉智昭、福澤朗、堀尾正明ら少人数しかいないことから「成功の証し」と言っていいかもしれない。
その意味でフリー転身直後から、帯の報道・情報番組でメインを務める藤井と青井はどうなのか。「どの程度バラエティのオファーがあり、意欲を見せるのか」は1つの焦点になりそうだ。
ただ、ベテランの男性アナウンサーは20代の女性フリーアナウンサーのように「タレントや俳優としてバラエティやドラマなどにも出演したい」という意向は考えづらいところもある。昨秋から元日テレの青木源太アナ(40)がカンテレの『旬感LIVE とれたてっ!』でMCを務めているように、結局「在阪局・在名局なども含めた報道・情報番組のイス取りゲーム」が中心になっていくのではないか。
ベテラン男性アナはつぶしが効く
男性フリーアナウンサーたちの主戦場となる帯の報道・情報番組は、中高年がメインの視聴者層になることは間違いないだろう。しかし、スポンサー獲得という点で見れば、主婦層を中心に20~40代の視聴者層を狙っていかなければいけない。
その際、ベテランは安定感・安心感がある反面、「年下世代の視聴者層を集められるか」が評価を分けるポイントにもなり得る。起用する制作サイドとしても、自局のアナウンサーではなく報酬の必要なフリーだからこそ、数字を見る目はシビアになるはずだ。
さらにもう1つ挙げておきたいのが、ベテランの男性アナウンサーがフリー転身した際の意外な落とし穴。「局のトップにいたときはスキルがあるように見えたし、信頼できると思っていたが、個人になった途端それを感じなくなった」などと彼らを見る視聴者の目が変わってしまうケースがある。さらには「なぜわざわざあの人を起用するのか分からない」「中堅・若手の局アナを使え」などと言われかねない。
裏を返せば、「制作サイドもベテラン男性アナウンサーの起用に際しては、かつて所属した局や担当番組のブランド力を当てにしている」ということ。しかし現在それが視聴者に通じるのは退局後2~3年程度ではないか。だからこそ彼らには、さまざまな分野における見識や、視聴者に寄り添える人間性を備えるための努力が求められる。
それでも、日本中の人々が認める成功とまではいかなくても、彼らが仕事に困ることは考えづらい。もしテレビの報道・情報番組で顔を見なくなったとしても、YouTubeなどの動画配信や実況、イベント司会、アナウンスの講師や講演、執筆業など活躍の場は多い。また、ジャーナリストになる。あるいは、取材で関心やコネクションを得た分野のビジネスに力を入れるなどの転身も考えられるところだろう。
実際のところ彼らの退局はベテランだからこそ、「テレビ番組への出演にこだわりすぎず、これらのさまざまな仕事に挑戦してみたい」という純粋な思いによるものなのかもしれない。