• テリー伊藤(左)と土屋敏男

ただ、クリエイターの中にも「自分も出たい」という表に出る願望のある人が一定数いて、実際にバラエティ出演する人も見かけるが、テリー伊藤や土屋敏男のような成功例は少ない。

どんなに多くの番組を手がけてきたとしても、それはクリエイターとしての経験値。いきなり「バラエティ出演者としてのキャラクターやテンションを見せろ」と言われてすぐに対応できるのか。さらに、作り手としてのプライドを一旦手放すことも、「自分はクリエイターでタレントではないから」という言い訳を捨てることも難しい。つまり、「出演者として世間の声の矢面に立てるか」「思い切って恥をかこうと思えるか」と言えば、簡単ではないだろう。

しかも、そんなプライドや言い訳は視聴者からすぐに見透かされてしまい、「大物ぶっている」「スカしているなら出なければいいのに」などと言われかねない。出るからには、笑いの量や好感度で貢献しなければいけないし、それは本人たちが最も分かっているはずだ。

その点、大物ぶったムードも、スカしたような言動もない佐久間の好感度は上々ではないか。例えば佐久間は、おととし秋から昨年春まで『スッキリ』(日テレ系)で「ドラマ『真犯人フラグ』の考察コーナー」に出演し続けていたが、「ハイテンションで予想してハズれる」という恥をかくようなケースを何度となく見せていた。その様子はバラエティの出演者そのものであり、少なくともこのくらいのことはどの番組でもできるのだろう。

しかし、佐久間の場合は他のクリエイターとは、立ち位置がやや異なる。『オールナイトフジコ』でともにMCを務める伊藤、森田と比べても知名度が低い反面、すでにコアなファンを持つインフルエンサーとしての力は上回っているからだ。

だからこそ佐久間は自分のファンたちに出演番組を見せ、ネット上で盛り上げてもらうような動きも期待されていくだろう。自らのパフォーマンスに加えて、ファンを番組に連れてきてクチコミで広げてもらうことができれば、これまでにないタイプのクリエイタータレントになっていくのではないか。

■作り手も『面白い人』の認識が必要

これまでテレビの作り手たちと会って話したり、インタビューしたりする機会が多かったが、「自分は出なくてもいい」というシャイな人が多かった。

クリエイターの能力と出演者の能力には違いがあることを分かっているから、「一線を引いておきたい」とメディア出演を避ける人もいる。さらに、「出たがりのようでカッコ悪いし、クリエイターの仕事だけで勝負したい」という硬派な人もいるだろう。

しかし、コンテンツが多様化し、テレビ放送とネット配信の境界線があいまいになるなど、「見てもらう」ための競争が激しくなる中、そうも言っていられないのではないか。

評価指標、表現の幅、制作費、マーケットの海外拡大などのさまざまな変化を受け、各局でエース級のクリエイターが相次いで退職し、若手が次々に抜てきされている。ただ、局員か否かを問わず、クリエイターたちが出演者に回るケースは依然として少ない。今後、競争が激化する中で選ばれるためには、「自分が時に出演者となって『面白い人』と認識されることで、手がける番組を見てもらう」というスタンスも求められていくのかもしれない。

その意味で、『オールナイトフジコ』の佐久間は、「面白い人」と認識される可能性を秘めている。実際、21日の放送では、大騒ぎするアイドルグループに「一番嫌いなタイプ」、スベった若手芸人に「とりあえず1週目は敗退」とぶった斬るような毒を放ち、笑いにつなげていた。少なくとも『ゴッドタン』の視聴者は、「生放送を重ねるごとにアジャストしていくだろう」と信じているのではないか。