今年退局したNHKのベテランアナウンサーたちを改めて見ていくと、まず武田真一は4月から情報番組『DayDay.』(日テレ)の総合司会に就任。同番組はエンタメの要素が濃い上に、本人もバラエティへの意欲を隠さず、さっそく日テレを中心に多数出演している。ただ、大手芸能事務所ではなく個人事務所であり、妻が代表兼マネージャーを務めるという形を選んだだけに、少なくとも『DayDay.』出演中はマイペースに活動していくのではないか。
武内陶子は退局後も『ごごカフェ』(NHKラジオ第1)のパーソナリティを継続しつつ、さっそく『ネプリーグ』『ぽかぽか』」(フジ)などの民放バラエティにもゲスト出演。「“武内陶子・第2章”では、これまでできなかったこと、やれなかったこと、やりたかったことを1つ1つやっていきたい」と語っていたほか、サンミュージック所属だけにNHK時代とは異なる姿を見せてくれるだろう。
2人が民放で活躍する一方、松尾剛は7月からNHK財団で企業研修や学生向けセミナーなどの講師として活動中。つまり、講師に転身して、後進の育成に励んでいるという。この3人は「早期退職制度を利用して退局した」と言われているが、松尾はまだアナウンサーの現役として活動することもできただけに、その決断は武田、武内とは異なるものだった。
民放ほどではないがNHKのアナウンサーたちもベテランになると仕事内容が変わり、管理職としての仕事が増える反面、ニュースを読む機会や現場取材などが減っていく。さらにベテランたちは退局してフリーになったあとも、「まだ現役にこだわるか、一線を退いて後進の指導者に転身するか」などの選択を迫られる。ただ、少なくとも有働がまだ後者となることはないのだろう。
■転職組と異色ブレイクの神田愛花
対象を今年に限らず過去に広げると、2021年3月で退局した近江友里恵は当時32歳で一般企業に転職。18年9月に退局した島津有理子は当時44歳で医学部を受験。16年3月に退局した内多勝康は当時52歳で医療福祉業界に転職した。年齢こそ異なるが、「アナウンサーという職種にこだわりすぎず、自分のやりたいことを追求しよう」という意志が感じられる。
これまでは民放ではなくNHKを選んでアナウンサーになった時点で「安定志向の人が多い」と見られがちだったが、彼らはいい意味でNHKのアナウンサーというブランドを手放しやすいようになったのだろうか。もちろん定年まで勤めることも美学として健在であり、経済的な安定を得られることも間違いない。ただ、武田、松尾、武内のように早期退職制度を利用し、早めに辞めてやりたいことを追求する人が増えたことは確かだ。
しかし、近江、島津、内多はそれ以前に、「取材で得た情報、問題意識、モチベーションなどを次のステップに生かしたい」という思いが感じられる。そう考えると、有働もこれまでのようにキャスターとして活動し続ける必要性はなく、自由なキャリアを築いていけるのかもしれない。
ちなみに12年3月で退局した神田愛花は、今年『ぽかぽか』(フジ)のMCに起用されたほかバラエティ出演を重ね、お笑い賞レースの王者たちを抑えて「2023ブレイクタレント」(ニホンモニター調べ)のトップに輝いた。言わば神田は第2の人生をバラエティタレントとして過ごしているのだが、それでもたびたび安藤優子らを目標に掲げていたことから先輩・後輩の姿に刺激を受けて、いつキャスターやジャーナリストに転身しても驚かない。
逆に、有働が今年の神田のようになっても驚きはなく、それだけNHKのアナウンサーたちが自由にキャリア形成しやすいムードが生まれているのではないか。