では、一般の視聴者は今回のサービスをどのように使っていけばいいのか。

“推し活”をしている人にとってこのデータは、ファクトの1つとして十分に利用価値のあるものだろう。

例えば、バラエティ、ドラマ、アニメなどのテレビ番組はもちろん、特定のアイドルグループや芸人など、自分の“推し”を応援する際、SNSに「今この番組はこんなに視聴率を獲っている」「裏番組にこれだけ勝っていた」「〇〇の出演シーンになったら毎分視聴率がこんなに上がった」などとアップすればOK。ポジティブな結果をシェアすればファンコミュニティが盛り上がり、X(Twitter)のトレンドランキング入りする可能性もありそうだ。

とりわけ熱心なファンが多いアイドルやアニメのファンは、「推しの人気や魅力を伝えたい」「推しに何とか手柄を獲らせたい」などと考えて、このデータを積極的活用していくのではないか。ただ、利用者がそれらのファン層に偏り過ぎると、このサービス自体がファンビジネス向けのものとみなされ、信頼性が薄れていくのかもしれない。

折しもここ数年間、“テレビの番組のファンビジネス化”は業界内で危惧されてきた。熱心なファン層の多いコンテンツやタレントは、「『好き』な人以外、『嫌い』という人が多く、『どちらでもいい』という人が少ない」というリスクがある。好き嫌いがはっきり分かれやすいため、一部のファンを優先させた結果、数倍のアンチを生み、テレビ離れにつながるという結果につながりかねないのだ。

ここまでサービスの発表から1週間が過ぎたが、IT系の情報に熱心な一部メディア以外が報じなかったからなのか。まだこのサービスは一般の視聴者層にほとんど知られていない。主要メディアがあまり報じないのは、「ビデオリサーチのデータではないから」「3時間限定のサービスに過ぎないから」という理由が考えられるが、それ以前に「本当に一般の視聴者が興味を示すデータなのか」という疑念もあるのだろう。

  • SNS投稿画面のイメージ

■“ライブイベント感”を高める戦略

人々のライフスタイルもエンタメそのものも多様化し、コンテンツの配信視聴が浸透する中、リアルタイム視聴のプライオリティが高いのは、もはやテレビ業界の関係者だけではないか。

また、「テレビのリアルタイム視聴率だけ可視化しても興味が湧く人は少ない」とみなしているのかもしれない。録画視聴率と総合視聴率(リアルタイム+録画)、TVerなどの無料配信再生数、U-NEXT、Hulu、FOD、TELASAなどの有料会員数と配信再生数といったひと通りの視聴データが可視化されるのであれば、興味を示す人もいる」という見方が現実的なところだろう。

もちろんそんな現実は各局も分かっていて、だからこそ「リアルタイム視聴を増やすために、番組に“ライブイベント感”をつけよう」という戦略が見える。

実際、今年最大のヒット作『VIVANT』は、豪華キャストと海外ロケのスケールばかり語られがちだが、決してそれだけではない。物語に謎や伏線を大量投入しつつ、放送後にも視聴者の考察にSNSで答えて盛り上げながら、次の日曜21時の放送を迎えるなど、リアルタイムで見ることのライブイベント感を高める工夫を重ねていた。

秋ドラマでも、『大奥』(NHK総合)の公式Xが「#大奥リアタイ」を促すツイートを重ね、放送のたびにトレンドランキング入りさせている。これは「NHKが『大奥』というドラマにそれだけ自信を持っている」からこその戦略だが、今後は視聴者自身もこのようなハッシュタグに加えてTVALのデータも使うことで、リアルタイム視聴のライブイベント感を自ら高めていけるだろう。

ただ、「『VIVANT』や『大奥』ほどリアルタイム視聴をうながせるハイレベルなコンテンツは年に数本程度」と考えるのが現実的なところ。もし制作サイドがクオリティや視聴者満足よりも、リアルタイム視聴を優先させるような構成・演出を続けたら反発を食らうだろう。

今年の年末で言えば、『M-1グランプリ2023』(ABCテレビ・テレビ朝日系)や『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)あたりは、TVALのデータを使ったリアルタイム視聴率の推移がネット上で注目されるかもしれない。やはりそのデータが最も生かされるのは、音楽の大型イベント、スポーツやお笑いの大会、緊急記者会見や選挙番組などのライブコンテンツなのではないか。