若年層における昭和や平成のブームも、番組復活の追い風となっている。音楽、ファッション、雑貨、建築などの古いものを日常的に楽しみ、SNSにアップする若年層が増え、メディアがフィーチャーする機会もジワジワと増えていた。
そんなムードの中、テレビ業界にとって転機になったのは、2022年8月に放送されたお盆特番『ダウンタウンVS Z世代 ヤバイ昭和 あり?なし?』(日テレ)。高視聴率を獲得したほか、ネット上の反応や評判も良好だったため、すぐに各局が追随して昭和から平成初期がテーマの番組が増えていった。
その他でも、『千鳥の鬼レンチャン』(フジ)、『バナナサンド』(TBS)、『オオカミ少年・ハマダ歌謡祭』(TBS)などで昭和・平成の楽曲が使用されるケースが多く、コア層の視聴率獲得に悩む各局を救世主的な存在になっている。
ちなみに『ダウンタウンVS Z世代』は、その後も今年2月と8月に放送されるなど、依然として幅広い年齢層からの高い関心をキープ。少なくとも若年層は、過去の名番組や映像を「懐古主義」などと否定するより、フラットな目線から見て「今の番組より面白い」などと好意的な人のほうが多いのではないか。
ただ、この件を考えるときに留意しておかなければいけないのは、冒頭に挙げた8番組中5つが地上波での放送ではなく、ネット配信かBSの“有料コンテンツ”であること。特にNetflixやAmazon Prime Videoなどの有料動画配信サービスから見て、過去の名番組は魅力的な存在となっている。
動画配信サービスは、有料・無料を問わず、メインコンテンツがドラマや映画であり、「バラエティやドキュメンタリーが好きな視聴者層を集められていない」という課題を抱えている。その点、過去に一世を風靡した民放の名番組は、認知度と企画の普遍性などの面で期待が大きく、さらに資金面の優位性からスケールアップさせてリメイクすることが可能だ。
■リスクを避けメリットを得る「復活」
一方、民放各局から見ると、過去の名番組は「失敗が許されない」上に、「かつてほどの予算がない」「合いそうな放送枠がない」などの難しさがある。
しかし、有料動画配信サービスとタッグを組んで名番組を復活させれば、これらの難しさを一気にクリア。「資金面の不安を解消しつつ、リスクを避け、ブランド価値を守りながら“コンテンツ制作会社”としての収入を得る」などのメリットが得られる。さらに、「ドラマなどの海外配信を進めるために、動画配信サービスとの関係を強固にしておく」などのメリットも期待できるようだ。
ただ、地上波での無料放送ではなく、ネットでの有料配信にすることで視聴者の全体数は減り、世間への波及効果も限定的なものになってしまう。実際、前述した配信で復活した番組は、さほど話題になっておらず、全盛期を知っている人々には物足りないものに映る。
最後に、今回番組名を挙げた中で『プロジェクトX』は、ビジネスモデルの異なるNHKの制作で、しかもドキュメンタリーであるなど、例外的な番組と言っていいだろう。
それでも、「『名番組は時代を問わず支持されるもの』であり、『名番組は次の世代にも伝えていくべきもの』という意識のもとで制作されている」という点では他の番組と同様ではないか。テレビマンの中にそんな使命感のようなものがあり、長いブランクを経ての復活につながっていることも1つの背景かもしれない。