ただ近年は、オチのひと言で笑わせるだけでなく、もっと笑いに関わる“プレイヤー”としての松本を求めるような特番が目立っている。

20年9月から放送されている『審査委員長・松本人志』では、松本が「失禁体験装置」などの未知なるツールに体を張って挑戦。松本の絶叫が定番となるなど、リアクション芸で笑いを誘っている。続いて21年6月には『キングオブコントの会』で20年ぶりに民放で本格コントを披露。以降も同番組は年に一度、松本がコントを披露する貴重な場となっている。

さらに、今年7月の『FNS27時間テレビ』(フジ)では、「ほぼごっつvs鬼レンチャン『チームDEファイト』」に出演。今田耕司、東野幸治、木村祐一、板尾創路、ほんこんを従えて、中堅の千鳥、かまいたち、ダイアンと戦い、クリームまみれになるなどの姿で90年代の姿を思い起こさせた。

いずれも松本がいるのは、トップとして一歩引いたポジションではなく、笑いの最前線。若手・中堅に交じって笑いを取りに行く姿は新鮮であるとともに、「ひと言で笑わせるだけでなく何でもできる」という本来の松本なのだろう。制作サイドの「そういう松本を見たい」「若々しい姿でいてほしい」という思いが伝わってくるし、本人も「若手・中堅の邪魔をせず、時々やるくらいなら、まんざらでもない」という様子がうかがえる。

現在、民放各局のゴールデン・プライム帯バラエティでMCなどトップを務めるタレントのうち、松本より年上は68歳の明石家さんまと所ジョージくらいだろうか。まだまだこの2人は制作サイドと視聴者の両者から、心身・技術の衰えをほとんど感じられていない。

出演番組はおおむね順調で視聴者も民放各局も「引退されたら困る」という状態にあり、その姿は還暦となった松本にとっても参考の1つとなるだろう。大橋巨泉、萩本欽一、関口宏ら昭和の司会者たちは還暦を迎える前にほぼゴールデン・プライム帯から姿を消していただけに、平成、令和と時代が変わっていく中でトップの寿命が延びているのは間違いなさそうだ。

  • 明石家さんまと所ジョージ

    松本人志より年上で現在もGP帯バラエティのMCを務める明石家さんま(左)と所ジョージ

■芸人も視聴者も「辞められたら困る」

現在その他のトップは、松本と同世代の内村光良(59)以外、ネプチューン、くりぃむしちゅー、中居正広、マツコ・デラックス、有吉弘行、バナナマン、サンドウィッチマン、千鳥、川島明ら40代~50代前半で占められている。

彼らにとって明石家さんま、所ジョージ、松本人志、内村光良は、なかなか越えられない大きな壁なのか。それとも、自分たちが後を追うべき道標なのか。どちらかと言えば後者であり、業界全体を盛り上げ、お笑いの可能性を広げるために「まだまだ辞めてほしくない」ように見える。

松本に辞めてほしくないのは視聴者も同様。ネット上に書き込まれた還暦の祝福コメントを見ていくと、お祝いの言葉より「まだまだずっと活躍してほしいです」「引退について最近良く口にされてるけど、もっとみていたい」「まっちゃんが引退したらショックだろうなぁ」「60年間絶えず面白かった男 そして今後も間違えなく面白いであろう男」(原文ママ)などと去就に触れるものが目立つ。

芸人と視聴者の両方から「辞めてほしくない」と思われているのだから、民放各局がオファーをやめることは考えづらい。そして、人々を笑わせ続けてきた松本だからこそ、「辞めたくても、辞められないな」という心境なのではないか。誤解を恐れずに書けば、辞められたら困る民放各局は、松本のそんな責任感や優しさにつけ込むような形で今後もオファーを重ね、引退を考えづらい心境にさせていきたいのかもしれない。