時代を先取りしていたもう1つのポイントは、ファミリー視聴を促す構成。

朝ドラは「ヒロインの一代記を描き、その人生や成長を見守る」というコンセプトが定番だが、『あまちゃん』はアキ、母・春子、祖母・夏(宮本信子)の3世代を中心に描くことで、各世代の視点から楽しめる作品となっていた。しかも、「壊れかけていた母と娘の関係性を“再生”していく」というハートフルな要素がファミリー層の感動を誘った感もある。

そのファミリー視聴を促す番組制作は、2020年春の視聴率調査リニューアル以降、民放各局が進めている戦略であり、「『あまちゃん』は7年も前に先取りしていた」と言っていいのではないか。スポンサーの求めるコア層(主に13~49歳)の個人視聴率を得るために最適なのは、親子そろって見られる番組。さらに、「できれば高齢層も含めた個人視聴率全体の数字も獲っておきたい」という基準もあり、その意味で娘・母・祖母の3世代が見やすい『あまちゃん』の構成は、これ以上ないものだった。

また、その“再生”は母と娘の関係性に留まらない。春子と鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の因縁、アキの親友・足立ユイ(橋本愛)のアイドル志望、震災で苦しんだ北三陸や北三陸鉄道などの再生もドラマチックに描かれた。そのクライマックスは特大級の大団円であり、視聴者がさまざまな再生を見届けたからこそ、「あまロス」という言葉が生まれたのだろう。

こうして文字で「3世代母娘の再生」「震災で苦しんだ東北の再生」などと書くと堅い感があるが、作品全体の印象は「明るさとノリの良さ」「笑いと感動」に集約される。そしてその印象は、インストゥルメンタルのオープニングテーマ、昭和アイドル風の「潮騒のメモリー」、現代グループアイドル風の「暦の上ではディセンバー」などを前面に出した音楽ドラマとしての一面にも表れていた。

■20年後、30年後も日本の朝を明るく

最後に現在の盛り上がりを語る上で、もう1つ挙げておきたいのは、10年間の飢餓感。

ドラマへの「ロス」というフレーズを定着させたのは『あまちゃん』であり、それほど人々の喪失感は大きなものがあった。そのためか、岩手県久慈市などのロケ地は全国各地から観光客が訪れ、もちろん数は当時より減ってはいるが現在も続いているという。

それほど多くの人々から深く愛された作品だったがゆえに、「『あまちゃん』に並び立つ作品に出会えていない」と感じている人が多いのではないか。

脚本・演出のクオリティが高い作品はたくさんあっても、これほど笑って泣けて、見ながらツッコミを入れて、ネットにつぶやいて……と楽しませてくれる、しかも毎朝の習慣として楽しませてくれるような作品には出会えていない。昨春、今春と各局が連ドラ枠を増やすなど、10年前より作品数は大幅に増えているが、『あまちゃん』ほどの熱狂を体感できていないのだろう。

また、主演を務めた能年玲奈が所属事務所から独立し、「のん」への改名後もテレビドラマへの出演がほぼないまま10年間が過ぎてしまった。実際、再放送にツイートする人々の中には、能年の素晴らしさをあらためて称える声や、のんのドラマ出演を願う声が少なくない。

そもそも『あまちゃん』は、朝から家族そろって笑い合えるほか、1人で見る人もネット上で共有して盛り上がれるなど、「日本の朝が明るくなった」と言われたほどの作品。それだけに10年後の現在に限らず、20年後、30年後も再放送したら、そのたびに「日本の朝が明るくなった」と言われるのではないか。