今月3日、NHK BSプレミアムで『あまちゃん』の再放送がスタートした。連日Twitterで関連ワードトレンド入りするなど、序盤からネット上をにぎわせている。
同作は2013年に放送され、「国民的ドラマ」と言われた能年玲奈(現・のん)主演の朝ドラ。「じぇじぇじぇ」が流行語大賞の年間大賞を受賞するなど、話題性が高かったのは間違いないが、10年前の作品だけに、今春スタートの新作『らんまん』を上回る盛り上がりに驚かされる。
なぜ、『あまちゃん』は10年が過ぎた今なお支持を集めているのか。単に「脚本・演出が優れた名作だから」ではないその理由を、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
■見ながらつぶやくドラマの先駆けに
これほどの長い期間、愛されているのだから、その理由は1つではないだろう。なかでも特筆すべきは、時代を先取りしていたこと。2013年の放送当時、すでにSNSは浸透していたが、「ドラマを見ながらつぶやく」という視聴形態はまだ少なかった。だからこそ『あまちゃん』は、その先駆けのような作品となり、言い方を変えれば、「『あまちゃん』以前と以後でドラマの見方が変わった」という感すらある。
それほど『あまちゃん』はつぶやきたくなる要素が詰め込まれていた。まずヒロインの天野アキ(能年)は、空気を読まない、やりたいことがコロコロ変わるなどの朝ドラヒロインらしからぬツッコミどころだらけのキャラクター。さらに、母・春子(小泉今日子)の「アキは変わらないけど、みんなが変わった」というセリフがあったように、定番の成長を描く物語ではなかったところも、「この朝ドラは違う」と書き込みを増やすポイントだった。
放送が進むにつれて広がっていったのが、視聴者の“推しキャラ”作り。朝ドラは放送時間帯の都合上、“温厚ないい人”が多くを占めるものだが、『あまちゃん』はそれにクセの強さを加えることで、視聴者それぞれの推しキャラ作りを促していった。
例えば、袖が浜の海女クラブ1つ取っても、「北三陸の越路吹雪」こと今野弥生(渡辺えり)、「メガネ会計ババア」の長内かつ枝(木野花)、「かけおち癖」のある熊谷美寿々(美保純)、まめぶと落武者の安部小百合(片桐はいり)と、クセの強い愛されキャラがそろい踏み。
その他にも、大人計画を中心に中堅・ベテランの個性派俳優を大量起用することで、2010年代後半のバイプレーヤーブームを先取りしていた。現在では“推し”が文化のようになったが、10年前にそれを促していたことに改めて驚かされる。
そして先取りという意味で、のちのドラマシーンに影響を与えたのが確信犯的な“小ネタ探し”の促進。もともと宮藤官九郎の作品は小ネタが多いことで知られていたが、『あまちゃん』は80年代と現代のカルチャー、田舎の北三陸と都会の東京を対比させながら描くことで、数の多さはズバ抜けていた。
なかでも新旧アイドルの描き方は、あるある、ノスタルジー、アンチテーゼなどを思わせる小ネタを詰め込んでツイートを誘発。近年、TikTokなどをきっかけに若年層の間に広がった昭和アイドルブームを2013年の段階でフィーチャーしていた。その意味で今回の再放送は、「まだ『あまちゃん』を見たことがない」という若年層にこそ見てほしい作品なのかもしれない。