この1年あまりドラマ枠が急増しているのは間違いないが、1つ忘れてはいけないのは、主に2000年代に入って以降、「ゴールデン・プライム帯から少しずつドラマ枠が減っていた」こと。

特に2010年代は全体の世帯視聴率低下に対応すべく、「うまくいかないと低視聴率が1クール続く」「面白い作品ほど録画されて視聴率が上がりづらい」というリスクがあるドラマからバラエティへの移行が進んだ。ゴールデン・プライム帯の約8割をバラエティが占め、「19時から23時までバラエティを立て続けに4番組放送する」ことが当然のようになるなど、現在のドラマ枠急増は「それ以前に減っていた」ことが背景にある。

かつては、「同じ曜日の同じ時間帯にドラマが2つ放送されている」なんてことが当たり前。むしろ「その時間帯にはドラマの好きな視聴者がたくさんいて視聴習慣もついているから、かぶせる形で視聴率を取りに行け」という戦略があるくらいだった。つまり、「ドラマ枠が増えた」というより、「バラエティを増やしすぎたバランスの悪い番組表が改善されていると言ってもいいのではないか。

ただ、深夜帯のドラマが増えているのは、やはり配信収入狙いなのは間違いない。基本的に配信は、放送のような時間・曜日による有利・不利がないフェアな場だけに、「ゴールデン・プライム帯の作品にネームバリューや宣伝で劣っても内容で勝負できる」ことが深夜帯のドラマ枠増につながっている。

ドラマ枠の急増に否定的な人の「見る人が分散する」「質が低下する」という指摘はあり得る話だが、そうならないようにするのが局の務めであり、「今こそ制作力が試されている」のは確かだ。とりわけバラエティのように、「増やしたのはいいが、似たようなマーケティングをした結果、どこかで見たような番組と出演者ばかりになった」という状態は避けなければいけない。

また、「数を絞って予算や人材を集中投下すべき」という声は一理ある一方で、危うさも感じさせられる。“集中投下”という戦略は「当たるか外れるか」というバクチの要素が濃くなるほか、そもそも「それがクオリティのアップや、収益につながるヒット作につながるか」は別問題だ。

■多様性を保ち、育成を進める好機

それ以上に考えなければいけないのが、“集中投下”によって自ら多様性を捨て、育成機会を減らしてしまうこと。多くのドラマ枠を持つことで初めて、局を挙げた大作から、刑事・医療・法律などの定番ジャンル、学園・長編ミステリーなどの数が減ったジャンル、季節性を前面に押し出した作品、アイドル主演作、思い切った異色作まで、さまざまなものが放送可能になる。

思えば2010年代は視聴率低下とドラマ枠減で、各局が刑事・医療・法律の手堅い定番ジャンルに偏るなど、多様性が失われていた。視聴者の趣味嗜好は細分化しているだけに、ホームラン狙いだけでなく、一定数のニーズに対応したシングルヒットを狙っていくことも民放の大切な役割だろう。確率論としてもホームランを狙うのなら、それなりの打席数(=ドラマ枠の数)が必要となる。収益化を進めていく中で、時折『VIVANT』のように予算を集中させてホームランを狙う作品があればなおいいのではないか。

そして、各局の貴重な財産である制作ノウハウを継承しつつ人材育成し、各芸能事務所と良好な関係性を保っていくためにも、ドラマ枠増は必要に見える。外部のスタッフなども含め、長年ドラマの制作現場では高齢化が叫ばれてきたにもかかわらず、なかなか育成が進まなかっただけに、今こそ力を入れる最後のチャンスなのかもしれない。

たとえば、フジの「ヤングシナリオ大賞」大賞受賞者はここ2年連続で翌年連ドラデビューを果たしているし、TBSも「NEXT WRITERS CHALLENGE」という育成プロジェクトをスタートし、日テレも「日テレ シナリオライターコンテスト」を立ち上げた。テレビ朝日を含めた各局がドラマの要である脚本家の育成に注力していることも含め、よい兆しが生まれているのは間違いないだろう。

「結局、似たものを作ってしまう」という保守的マーケティングや、「一部の俳優とスタッフにオファーが集中してしまう」などの問題点があるのも事実だが、配信収入の糸口が見えづらいバラエティと比べても、ドラマの未来は明るいように見える。

  • 「日テレ シナリオライターコンテスト2023」