中高年層の動向が反映されやすい世帯視聴率を獲るために制作したことを物語っているのは、刑事・医療・リーガルの3ジャンル。00年代から10年代にかけて中高年層の好むこの3ジャンルが飛躍的に増え、しかもその大半が一話完結型の作品だった。
さらに一話完結型の作品を全11~12話制作することは難しい。『相棒』(テレ朝)など一部の作品を除いて、「質の高い週替わりのエピソードを11~12本そろえる」ことは至難の業であり、飽きられやすいことも含めて全9~10話がベースとなっている。
また、各局がマーケティングを進めるうちに、「視聴者がせっかちになっている」ことに気づいたところも大きい。池井戸潤の原作小説2作を全10話に凝縮した『半沢直樹』(TBS)が大ヒットしたことからも分かるように、「展開が早く多い物語を好む」「心の機微を描いても見てもらいづらい」という視聴傾向を踏まえた制作が進んでいった。
ただこれは裏を返せば、「せっかちになった視聴者を引き込めるほどの作品をプロデューサー、脚本家、演出家が手がけられていない」という厳しい現実とも言える。つまり、放送話数の多いドラマはハードルが高いのだ。その意味で現在、全11~12話の物語に挑んでいるドラマはそれだけで志が高い作品と言っていいだろう。
それ以外の要素としては、「放送話数が多いほうが配信再生数を稼げる」という点も見逃せない。配信再生数は「1話あたり何百万回」という単純なかけ算で計算が立ちやすく、「できれば1話でも多いほうがいい」と言われている。視聴者が多く影響力の大きいゴールデン・プライム帯の作品は、少なくても1話100万回、多ければ300万回以上の再生数が得られるため、全9話より全11~12話のほうがいいと考えられるのは当然なのだ。
■ドラマを取り巻く環境が劇的に向上
ドラマの放送話数には季節の違いも関係している。もともと夏ドラマと冬ドラマは終盤が春・秋の改編期にあたり、秋ドラマの終盤も年末編成にあたるため、早めに終了させられやすい。さらに、夏ドラマはビッグイベントで放送休止になりやすく、冬ドラマもスタート時に年始編成の影響を受けて話数が少なくなりがち。一方、これらの影響を受けない春ドラマは6月下旬まで放送されやすいなど、以前から話数が多い季節だった。
しかし、今後はそんな季節を問わず春夏秋冬すべてで放送話数が増えていくかもしれない。2020年春に視聴率調査がリニューアルして、主にコア層(13~49歳)に向けた制作が進められるように変わったことで、ドラマを取り巻く環境は一変した。
激減していたラブコメや長編ミステリーが増えるなど、さまざまなジャンルの作品がそろうようになり、本来の魅力だった多様性が復活。さらに、配信再生数が飛躍的に伸び、若年層をつかめるなどの理由もあって、昨春からドラマ枠が増え続けている。
配信再生には高収益化という課題こそあるが、「ドラマに注力していこう」というムードが業界全体で共有されているのは間違いない。だからこそ現在の「全10話がベースでは少ない」という感は否めず、今後は各ドラマ枠の放送話数がジワジワと増えていくのではないか。
たとえば、ドラマ制作の得意なTBSも全11~12話の作品が増えてしかるべきだし、テレ朝も火曜21時台を中心に「一話完結型の刑事・医療・リーガル頼みから脱却しよう」という姿勢が見える。また、マーケティングに長けた日テレが全12話の『だが、情熱はある』が評価された手応えを無視するとは思えない。
目先の視聴率を求めて、ドラマは全10話ベースに留め、もはや特別感が消えたバラエティ特番を放送するのか。それとも放送話数を増やし、全11~12話までしっかり描いて連続ドラマとしての魅力を引き出そうとするのか。民放各局のテレビマンたちは、決断を迫られていくだろう。